澁澤龍彥×野坂昭如  エロチスム・死・逆ユートピア 『週刊読書人』1971(昭和46)年1月4日号(1月11日号合併)1~2面掲載|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年4月7日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第858号)

澁澤龍彥×野坂昭如 
エロチスム・死・逆ユートピア
『週刊読書人』1971(昭和46)年1月4日号(1月11日号合併)1~2面掲載

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第6回
安楽死もやはり極限 最後の理性を取払ってしまうと

渋沢 龍彦氏
渋沢 
 しかし、野坂さんは、相当エロを研究してますね。エロをこれだけ深く研究している人というのは、日本ではほんとうに少ないな。というのは、男と女がベッド・シーンでどうこうやったなんて、そんなこといっくら研究したって、エロの研究にはならんのだね。
野坂 
 死ぬということと、エロチシズムの追求みたいなことと、わりに関連性があるような……。
渋沢 
 けっきょく経験できないことが、いちばんいいわけでしょう。こわいこわい、いやだいやだと言っているうちに、そのいやなものをいちばん……ビルディングの屋上で下を見ると、なんか落っこっちゃうような気がして、モゾモゾモゾッとするような気持ちですね。われわれはとにかく理性でやったら死んじゃうからだめだというふうになるけれども、その最後の理性を取っ払っちゃえば、やっぱり死ぬんじゃないんでしょうかね。しかし、死んだ人の経験を聞くわけにいかないから(笑)これはわからないんだけれども。
野坂 
 死にましょうというか、何か事あるたびに、たとえばぼくの小説の主人公というのは非常によく死ぬんですね。めったやたらと、ぼくはお葬式を書くのが好きなんですよ。ぼくはいままでに六曲レコーディングしているけれども、この歌が全部死ぬわけですよ。「おれが死ぬ日」とか「男が死ぬとき」とか「黒い死の歌」とか、すごい不吉な歌ばっかりぼくは歌わされるんだけれども、ぼくは死をもてあそぶことが好きみたいなんだけれども。
渋沢 
 それがだから観念的だと思うんですよ。ぼくがさっき観念的だと言ったのは、死ということも含めて、観念的だと言っているわけだけれどもね。
野坂 
 あれはやっぱり、戦争の影響があるのかね。どっちみち、自然死としての戦死があった時代。
渋沢 
 ぼくはしかし、野坂さんはそうは思わないわけだ。つまり、何の影響でこうなったとか、状況がどうだからとかじゃなくて、やっぱり死が好きなんじゃないですか。死が好きな人というのは、いるんじゃないかな。それは物事を極端まで考えていくのに、死ということにぶつからざるを得ないからね。ぼくはときどきエッセイで、安楽死とか、ユートピアということを書いたんですけれども、ぼくが考えていることを、野坂さんが小説で書いているわけですよ。ぼくは安楽死ということも非常にむかしから考えていた。やっぱり極限なんですよ。人間がどういうふうに死ぬか。安楽死で死ぬか、苦しんで死ぬかということね。そういうところを彼は小説で書いているんです。だからぼくは、観念的な作家であるというふうに、勝手に解釈しているわけだけれども。安楽死なんていうことを、あんまりそんなこと言わないんですよ。相当重大な問題かもしれないけれども。
野坂 
 だけど、ぼく自身が病の床に伏すでしょう。たとえば安楽死の方法というのはいろいろあるわけだけれども、かりに、ぼくの最も話のわかる医者にそのことをたのんでおいたとしますね。たとえばその男にぼくが言っときますね。ぼくはどうせ不治の病だから、麻薬をばかばか打って、眠れるごとく殺してくれと頼んでおいたとします。
渋沢 
 たとえばモルヒネですよね。
野坂 
 ぼく自身が病気で寝ているときに、その男がフラッとやってくる(笑)。
渋沢 
 じゃ、モルヒネ持ってきたということがわかるわけ。
野坂 
 その人間がまったく関係なくきても、ぼくはうろたえ騒いで、こんど、お医者さんが注射を打つといっても、あの男に頼まれて、おまえは注射を打つんじゃないかと(笑)ものすごくうろたえるんじゃないかという気があるんです。いまぐらいの年ならまだいいけれども、これが六十過ぎちゃって、そのときどんな死に方をするかわからないけれども、ほんとうにガンで死ぬとかりに思っていても、その男を見たら、狂気のごとくおこるんじゃないか。おまえなんか向こうに行けと言うんじゃないかという、そんな気が一方にあるんですよ。
渋沢 
 でも、やっぱりそのほうがいいと思うな。
野坂 
 ただ、死んだ方が生き返ってこないからわからないけれども、モルヒネで眠れるごとく大往生といってもあれうわべだけで、はたは眠っていると思うけれども、ご当人は、それこそ観念の世界の中で、えらい苦しんでいるんじゃないかという気がするんです。
渋沢 
 でも、死ぬときは、カッと音がするでしょう。ガラガラガラガラなんていって。でもそれは、本人が全然気がついてないんじゃないですか。
野坂 
 人間のからだのメカニズムというのは、かなりけっこうにでき上がっているけれども、それはすべて生きるためということが大前提ででき上がっているんだろうと思います。死ぬとなると、これはひどく原始的に死んでしまうわけだから、死ぬときに、なまじ人間みたいに、妙に観念的な領域を自分のものにしたやつは、その前を死ぬときに受けるんじゃないかという気がするんです。
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