待鳥聡史・宇野重規・苅部直・谷口功一トークイベント載録 平成の社会科学を振り返る ―――公共性からコモンズへ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月22日 / 新聞掲載日:2019年3月22日(第3282号)

待鳥聡史・宇野重規・苅部直・谷口功一トークイベント載録
平成の社会科学を振り返る
―――公共性からコモンズへ

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二月二八日、東京・神田神保町の東京堂書店・神田神保町店で、トークイベント「平成の社会科学を振り返る――公共性からコモンズへ」(待鳥聡史・宇野重規・苅部直・谷口功一)が開かれた。二月に刊行された『社会のなかのコモンズ』(待鳥聡史・宇野重規編著、白水社)の刊行を記念した催しである。会場には、本書の執筆者である四氏のほか、江頭進・砂原庸介・田所昌幸・鈴木一人の各氏も来場し、寄稿者全員が発言した。この模様を載録させてもらった。                (編集部)
第1回
コモンズ研究会

谷口 功一氏
谷口 
 『社会のなかのコモンズ』は、サントリー文化財団の助成を受けて行っていたコモンズ研究会の成果物として出版したものです。今日は最初に、代表の待鳥さんから、研究会の概要についてお話しいただきます。次に、平成の三十年間を振り返りながら、公共や公共性といった概念が、どういうふうに扱われてきたのか。これが二つ目のトピックです。本書に収録された宇野さん、待鳥さんによる対談の延長戦になる話かと思います。そして、ご自身が書いた章を簡単に紹介していただいた後、それぞれが印象に残った、他の章について触れてもらいます。では待鳥さん、お願いいたします。
待鳥 
 コモンズ研究会は、ご紹介にあった通り、サントリー文化財団から助成をいただいて、二〇一五年九月から二年半にわたって行われました。そもそも「コモンズ」という概念については、私自身専門ではなく、あまりよくわかっていませんでした。もちろん、ギャレット・ハーディンの「コモンズの悲劇」や、エレノア・オストロムの「コモンズの統治」については知ってはいましたが、具体的なことはよくわからないし、何より今風ではないなというぐらいの感覚でした。ただ、私の信頼する田所さんがどこかでお目にかかったときに、「コモンズ面白いよ」という話をされていたんですね。それならばと思い、研究会をはじめることになったわけです。研究プロジェクトは、どんなテーマであっても、いい人たちを集めると、概ね面白いものになる。これは普遍的な真理です。その意味で、今回は、いいメンバーに恵まれて、とても充実した企画になったと思います。

もう少し内容に踏み込んで話しますと、原理的に考えるというよりは、現代あるいはこれからの社会を見据えて、どういうふうにコモンズという概念について考えていけるか、概念を使っていけるか。原理篇ではなく応用篇みたいな形になったんじゃないか。この本の中には、原理的にコモンズの概念を考えていこうという論文はありません。そこに不満を感じる方もおられるかもしれませんが、私自身には、原理や概念に遡って考えるよりも、現代に生きる私たちが直面している具体的な課題について考えることができるならば、それは意味のあるプロジェクトになるだろうと、そんな思いがありました。結果的に、本のタイトルが『社会のなかのコモンズ』に落ち着いたのも、今そこにある社会的、現代的課題に対して、さらには将来の課題に対して、コモンズの概念を使って考えてみると、何が見えてくるのか。そういう思いが強かったことの表れです。
谷口 
 二つ目の話題に移ります。平成三〇年を振り返りつつ、社会科学における公共や公共性について、苅部さん、宇野さんにお話しいただきます。
苅部 
 そもそも論として言えば、「平成という時代はどうだったか」といった問題提起のしかたは、あまり意味がないはずなんですね。天皇の代替わり、元号の変化とともに社会が大きく変わるなどというのは、およそ非合理的な発想です。しかし実は平成年間に関するかぎり、三十年がひとかたまりの時代として意識される理由は、たしかにあるでしょう。一九八九年に平成がはじまり、年末にはベルリンの壁が崩壊して、やがて冷戦が終了、ソ連が解体する。九三年には日本でも、自民党の一党支配が終わり、細川連立政権に替わる。平成の始まりとともに、国内外で大きな変化が起きています。さらに平成の末には、イスラーム国の問題が噴出し、トランプ政権が誕生して、国際社会における大きな変化として受けとめられている。平成の始まりと終わりは、大きな変化と不思議に重なっているので、この三十年を一つの時代として考えるのも、それなりに説得力をもつんですね。

『社会のなかのコモンズ』の副題は「公共性を超えて」ですが、日本でこの「公共性」が盛んに論じられた時代として、平成年間を特徴づけることができるでしょう。僕はたまたま、平成が始まった年、一九八九年にこの「公共性」のテーマに関わる修士論文を書いていましたから、よく憶えているのですが、そのころ「公共性」という言葉は、かっこうの悪い、はやらないものだった。たとえば一九八七年に、僕と宇野さんの共通の先生である佐々木毅さんが『いま政治になにが可能か――政治的意味空間の再生のために』(中公新書)を著して注目された。これは、地方や業界の利益の実現だけに執心する、断片化された政治を克服して、全体的なものとしての政治を再建しようと説く本なのですが、「公共性」とは言わず「政治的意味空間」という独自の概念を使っている。つまり「公共」という言葉は、「お上」への依存とか、極端に言えば全体主義につがなるような、否定的なイメージと重なっていたということなのでしょう。政治学の世界では、「参加民主主義」とか「新しい社会運動」とか「多元主義」とかいったテーマに注目が集まっていたように思います。例外的に「公共性」を積極的に論じていたのは、早稲田大学の藤原保信さんくらいでした。

そういう状況だったのが、平成に入るぐらいから、「公共性」という言葉が積極的な意味をもつものとして強調され始める。代表的なのは、J・ハーバーマスの『公共性の構造転換』の第二版が一九九〇年に刊行されて(邦訳は九四年)、多くのアソシエーションが活動する空間としての市民社会と「公共性」のイメージが、広く論じられるようになった。東京大学出版会で『公共哲学』のシリーズが刊行されていますが、九八年にその母胎となった研究会が始まっている。そして二〇〇〇年には齋藤純一さんが『公共性』(岩波書店)を書く。こうして、「公共性」が社会科学におけるキイワードの一つに昇格した時代として、平成をとらえることができるでしょう。その上で、「公共性」とも重なる問題を、まったく別の切り口から考え直そうとした。それが今回の「コモンズ」という問題設定だと思うんですね。
宇野 
 私は苅部さんより若干年下ですが、『いま政治になにが可能か』の影響を受け、また九〇年代にはアーレント・ブームもあり、公共性の復権の機運とともに政治学研究の世界に入った気がします。確かに、最初はやや抵抗のあった公共性という言葉が、次第に肯定的なビッグワードとして定着したのがあの頃です。苅部さんの言葉を受けて言うと、八九年のベルリンの壁崩壊以降、まずは政治改革の時代でした。政治が変わることに対して、ポジティブに捉える言説が盛んでした。これが九五年の阪神淡路大震災、オウム事件ぐらいから、段々変わっていく。研究としては公共性論が定着していきますが、世の中の議論を見ると、むしろ批判されるようにもなる。九〇年代末から顕在化する経済問題や格差問題にうまく対応できなかったのが一つの要因でした。研究者やNPO関係者が、やや理想的に公共空間を語る傾向があったのも批判の一因です。だから、平成の後半は、公共性という言葉がやや後退していく。時代感覚としては、そのような印象があります。

待鳥さんとの対談では、公共性とコモンズの概念の違いを強調して論じています。ただ、私自身は元々コモンズを研究していたわけでなく、公共性に喧嘩を売るつもりもありませんでした。「喧嘩を売る」というよりは、むしろ公共性とコモンズの概念をどこかで差異化しなくてはいけないと思ったのが正直なところです。ハーディンの「共有地の悲劇」以来有名になったこの言葉は、何らかの具体的な場所や物と結びついています。そのような場所や物を人々が共有し、自主的なルールに基づいて秩序を作り、管理していく。その独自の仕組みと理念を、公共性論と対立させながら考えてみたかったんですね。公共性論は具体的な場所や物を離れて、理想的な対話空間としてイメージされがちです。これに対し、話をリアルなものに戻したくて、コモンズという概念が使えるんじゃないかと考えました。だから、結果的に「公共性を超えて」という副題が台頭してきたのだと思っています。でも、待鳥さんがおっしゃったことに付け加えれば、我々の中で、コモンズ研究をやっている人間は元々いなかった。いろいろなことを専門にしている研究者が、この言葉にどう触発されてものを考えるか。対談では、奇しくも「リバタリアン・コミュニタリアン論争」にまで及びましたが、平成三十年間の社会科学の言説と対比した上で、コモンズをどう位置づけるか。結果として、そんな話になったと思います。
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この記事の中でご紹介した本
社会のなかのコモンズ 公共性を超えて/白水社
社会のなかのコモンズ 公共性を超えて
著 者:待鳥 聡史、宇野 重規
出版社:白水社
以下のオンライン書店でご購入できます
「社会のなかのコモンズ 公共性を超えて」出版社のホームページはこちら
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