待鳥聡史・宇野重規・苅部直・谷口功一トークイベント載録 平成の社会科学を振り返る ―――公共性からコモンズへ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月22日 / 新聞掲載日:2019年3月22日(第3282号)

待鳥聡史・宇野重規・苅部直・谷口功一トークイベント載録
平成の社会科学を振り返る
―――公共性からコモンズへ

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第3回
言葉に夢を託して

宇野 重規氏
宇野 
 「フランス語っぽいレピュブリックは使いたくない。むしろコモンの方が好きなんだ」と語っていました。「コモン」という概念に、強い愛着があるわけですね。彼はその概念を使い、現代の労働を読み解き、独自の革命論を築き上げていった。これは面白いと思ったのが、論文を書くきっかけです。

ローレンス・レッシグも『コモンズ』という本を書いています。面白いですよね。ネグリみたいなポスト・マルクス主義の左翼と、レッシグのようなリバタリアンの情報論者が、揃ってコモンズをキーワードにしている。本の中では、シェア・エコノミー(共有型経済)を提唱するジェレミー・リフキンについても紹介しています。「IoT社会」では、物作りのコストが下がり、いろんな物を共有する時代になった。そうしたシェア・エコノミーに可能性を見出すリフキンも、コモンズに注目している。現代の思想家を読んでいくと、コモンズがひとつのキーワードになっているわけです。様々に立場の違う人々が、コモンズという言葉に夢を託している。ある意味で言うと、ごつごつしたアングロサクソンの古臭さがあるこの言葉が、もう一回光りを浴びているわけですね。これを探っていくと面白いんじゃないか。そう考えて、思想的分析をしたのが私の論文です。

私も苅部さんの論文に触れようと思いましたが、江頭さんの「衰退する地方都市とコモンズ」について申し上げます。祭りとイベントに関わる話が、自分の問題関心とも重なっていて、とても面白いと思いました。どういうことか。祭りというのは伝統的な芸能を媒介にしていて、閉じられた側面もある。新しい人が入りにくいのが地域のお祭りです。だから、これからは衰退していくだろうと思っていました。それよりもイベント型で、外から人に来てもらって、交流人口を拡大し、地域というコモンズを一緒に盛り上げていく。そんな方向性で、私は考えていたんです。ところが、実際に震災後の釜石へ調査にいってみると、逆なんです。イベントは、大災害が起きるとできなくなる。それに対して、伝統的な祭りは、神社が壊されようが、最初に復活する。釜石で言えば、虎舞という伝統芸能を中心にして行われる祭りがあります。そういう意味では、古い祭りと現代的なイベントを組み合せて、地域というコモンズを発展させていくのが、重要な問題だと思っています。江頭さんは、まさに祭りとイベントの話をされていた。非常に示唆的でした。
谷口 
 「ミートボールと立憲主義」では、デンマークの話をしています。デンマークは「幸せな国」というイメージを持たれていますが、かなりエグイ移民・難民の排除をやっているんですね。国民食であるミートボールを給食で強制する条例を今、自治体が作ったりしています。豚肉で作られていますからムスリム排除であり、イスラームが大きな問題として浮上してきているわけです。イスラーム国を見ていてもわかりますが、こうした問題は、従来の多文化主義といった考え方で説明できる範疇を超えている。本質的に違うということを、まずは認める必要があるんじゃないかというのが、私の論文の趣旨です。我々が現在持っている立憲主義は、基本はヨーロッパ由来です。宗教戦争を経て、各々が寛容を取り入れ、政教分離し、公私を区分することになった。長谷部恭男さんの言葉で言えば、立憲主義は、公的領域と私的領域の境界線をパトロールしている。けれども、イスラームの場合は違います。いいか悪いかは別にして、我々の政治制度や体制とはインコンパーティブルなものとして、イスラーム社会は存在している。そのことをもっと認識した方がいいんじゃないかということですね。赤い砂を撒かれて殺されたりしたくはありませんが、まさにヨーロッパが直面している問題であり、相当気をつけて書きました。

印象に残ったのは、私も苅部さんの論文です。戒能さんの『小繋事件』も、是非お読みになられたらいいと思います。もうひとつは、江頭さんですね。経済学の理論的な議論をする時と同様の鳥瞰した視点に加えて、虫が這うように細かい事実を見ている。両者がうまくミックスされていると思いました。地元である小樽を例に挙げて、祭りや商店街を分析することを通して、人口縮減問題を扱っているんですが、小樽は札幌から近いことによって、逆に人口流出が凄くなっている。私も講演などで地方を回っていると、信じられないぐらい労働力が減っているのがよくわかります。総務省の「自治体戦略2040構想研究会」のデータを見ても、二〇四〇年までに、人口七〇%減を予想されている都市がたくさんあります。これから先は、そこに移民問題も絡んでくるでしょう。東京はまだ人がいるんですよ。我々の想像以上に、地方は人が減っている。そういう話が、江頭さんの論文では詳しく書かれていて、面白く読ませていただきました。
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この記事の中でご紹介した本
社会のなかのコモンズ 公共性を超えて/白水社
社会のなかのコモンズ 公共性を超えて
著 者:待鳥 聡史、宇野 重規
出版社:白水社
以下のオンライン書店でご購入できます
「社会のなかのコモンズ 公共性を超えて」出版社のホームページはこちら
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