待鳥聡史・宇野重規・苅部直・谷口功一トークイベント載録 平成の社会科学を振り返る ―――公共性からコモンズへ|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月22日 / 新聞掲載日:2019年3月22日(第3282号)

待鳥聡史・宇野重規・苅部直・谷口功一トークイベント載録
平成の社会科学を振り返る
―――公共性からコモンズへ

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第5回
美しいイメージではなく

谷口 
 今日は、本書の執筆者が全員揃っています。江頭、砂原、田所、鈴木の順に、同じく自分の論文の紹介と印象に残った章について、お話しいただきたいと思います。
江頭 
 谷口さんにご紹介いただいたんですが、衰退する地方都市の問題を扱いました。小樽に住んで二三年目になりますけれども、赴任した時には一五万人ぐらいの街でした。しかし年間二〇〇〇人ぐらいずつ人口が減っています。二〇代・三〇代を中心に、最近まで約四万人、ほぼ三分の一近くの人がいなくなったということです。まさに、コモンズが崩壊していくあり様を調査・観察しています。市のレベルでは、北海道の中で、人口の減少率は一位二位を争っていますし、高齢化率も三九%に達している。非常に速いペースで都市が衰退しています。今後四十年ぐらいのスパンで考えれば、日本のほとんどの都市が、同じ問題に直面すると思います。そうやって街が衰退していくと、何が起こるか。職場や学校がなくなる、あるいは集まっていた喫茶店やスナックがなくなる。商店街も活気がなくなっていく。結果として、人と人のネットワークがどんどん切れていってしまう。ネットワークが寸断すれば、街は情報処理する能力がなくなっていきます。安倍政権になって、地方創生のお金がどんどん入って来るようになりました。しかし、それをどう使えば、街のためになるのか。誰も考えつかない。「活性化しなさい」という指示は来ても、処理できなくなっているんですね。たとえば、中心になって考えていた人がいなくなっているし、この問題ならばあの人に聞けばわかるっていうような、ハブになっていた人がいなくなった。私がこの一〇年間考えてきたのは、切れたネットワークをどうやって再生し、繋ぎ直すかということです。衰退する社会の中では、コモンズの機能が非常に重要になってきます。しかしネットワークが切れ、コモンズが崩壊していく。砂の城が崩れていくように、どんどん小さくなる。それをどうやって支えていけるのか。これが私の論文のテーマとなります。

苅部さんの「ぎすぎすした」という指摘もありましたが、田所さんと谷口さんの論文が、私には面白かったんです。つまり公共性という言葉を使うと、なんとなく美しいイメージが出てきますが、コモンズというのは、我々が観察している商店街も利益共同体なので、一旦衰退がはじまるとまったく協力しなくなるんですよ。商店街を維持するために力を合わせるのは、年に一回あるアーケードの雪下ろしぐらいです。商店街がなくなってしまっては困りますが、実際にそれを維持する活動、その中で行われる人間のインタラクティブというのは、それほど簡単な話では済まない。でも、どうにかして維持していかなければならない。それを考えるために役立つ話が、本書には多かったと思います。
砂原 
 私は、住宅の話をしました。なぜ住宅がコモンズなのか。他の章にあるように、「コモンズとは何か」という逡巡がまったくなく、いきなり住宅の話をはじめています。宇野さんにも論じていただきましたが、日本では中古住宅が少ない。丁度この研究会の途中から、バンクーバーに在外研究で滞在しておりました。あちらでは、みんな中古住宅を使っています。なぜ日本は違うのか。中古住宅の市場が発達しない理由は、いろいろあると思いますが、私は、新築が安いからだと考えています。そのことは『新築がお好きですか?』(ミネルヴァ書房)で書いているので、それとは違うことを考えてみようと思いました。具体的に論じたのが、公営住宅の話です。公営ですから、まさに公共の話に近いものがイメージされる。しかし日本の場合、公営住宅に入った人がなかなか動かない。だから他の人が使えない。みんなが使えない公営住宅ってなんなんだろう、なぜみんなが使えるようにならなかったのかと考えていった。そういう論文の作りになっています。そこから、かりに公共性がいいものだとしたら、それはタダで使えるものなのだろうか、多分タダではない、お金を払わないといけないものなんだと考えています。お金だけの話ではないかもしれませんが、いいものを提供するには何かしらのコストはかかるはず。だけど、日本で公共性が語られる場面では、いいものをタダか非常な安価で提供しなければいけないという論理が横行しがちです。公共性のあるいいものの値段をどう考えるか、それが本当に言いたかったことです。

私の章は、今述べたように、いきなり「住宅=コモンズ」の話ではじまります。その意味では、鈴木さんの「脱領域的コモンズに社会的コモンズは構築できるか」も、そうなんです。「宇宙空間はコモンズである」という話ではじまっている。議論の進め方が似ていて、私には面白かったですね。
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この記事の中でご紹介した本
社会のなかのコモンズ 公共性を超えて/白水社
社会のなかのコモンズ 公共性を超えて
著 者:待鳥 聡史、宇野 重規
出版社:白水社
以下のオンライン書店でご購入できます
「社会のなかのコモンズ 公共性を超えて」出版社のホームページはこちら
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