『ビートが生まれたとき ~DJクール・ハークとヒップホップの創造』|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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American Picture Book Review
更新日:2019年3月26日 / 新聞掲載日:2019年3月22日(第3282号)

『ビートが生まれたとき ~DJクール・ハークとヒップホップの創造』

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『When the Beat Was Born: DJ Kool Herc and the Creation of Hip Hop』Laban Carrick Hill著/Theodore Taylor III画(Roaring Brook Press)
ニューヨークのブロンクスに“ユニヴァーサル・ヒップホップ博物館”が開設されることとなった。開館はヒップホップ生誕50周年に当たる2023年。あと4年あるが、世界中のヒップホップ・ファンが今から心待ちにしている。

『ビートが生まれたとき~DJクール・ハークとヒップホップの創造』は、ヒップホップの父と呼ばれるDJクール・ハークがどのようにヒップホップを生み出し、初期のヒップホップとはどのようなものだったかを、ハークの生い立ちと当時のブロンクスの様子を背景に活きいきと、かつ丹念に描いている。

ハークは子供の頃、ジャマイカからブロンクスにやってきた移民だ。カリブ海の島とはまったく異なる都会のブロンクスに馴染めない少年ハーク。だが、ジャマイカ時代にあらゆる音楽を聴いて育っただけあり、やがて音楽に傾倒していく。  1973年、18歳になったハークはアパートの集会室でのパーティでDJを務め、それまで誰も見たことのない技を披露した。同じレコードを置いたターンテーブル2台を操り、曲の“ブレイク”と呼ばれる部分を延々と繰り返す。ダンスフロアに友人の顔を見つけると、その名前を連呼する。これがダンスとパーティを大いに盛り上げ、ハークの名は瞬く間に知れ渡った。

本作は絵本とはいえ、ハークが編み出したDJの手法、ハークの音楽によってブロンクスの人と街がどう変化したかがよく分かる歴史書だ。抑えた色のイラストからは、現在のヒップホップの派手できらびやかな面は微塵も伺えないが、目を凝らせばアフロヘア、フープ・イヤリング、ハンチング帽、プラスチック・フレームの大きなメガネなど、当時のユニークなファッションがみてとれる。黒人とラティーノが混在しているのも、ブロンクスやヒップホップに詳しくない人には新鮮かもしれない。なによりブロック・パーティと呼ばれる路上や公園での屋外パーティの風景はまさにヒップホップ誕生の瞬間を写し取ったものであり、心が踊る。そう、ヒップホップは単にラップという音楽やブレイクダンスだけを指すのではなく、アート、ファッション、話し方、物腰態度、ひいては大手レコード会社に頼らない自主レーベルの概念までを含めた、まったく新しい総合カルチャーだった。それが貧困と犯罪にあふれ、全米最悪のゲトーと呼ばれたブロンクスから生まれたのである。

ヒップホップは誕生から50年近くを経た今も色褪せることはなく、それどころか世界中に浸透してしまった。今ではヒップホップをヒップホップとは知らずに享受している人の方が多いかもしれない。こうした時代だからこそ、本作はヒップホップのルーツを改めて知るための貴重な一作と言える。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
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