【横尾 忠則】8年前のあの瞬間から、直下型地震のイリュージョン、不条理に揺れる躰|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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日常の向こう側ぼくの内側
更新日:2019年3月26日 / 新聞掲載日:2019年3月22日(第3282号)

8年前のあの瞬間から、直下型地震のイリュージョン、不条理に揺れる躰

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アトリエにてオノ・ヨーコさんと(撮影・徳永明美)

2019.3.11
 8年前の東日本大震災のあの瞬間は有楽町の20階の日本外国特派員協会にいた。窓の外の高層ビルが左右に揺れているのを、激しく揺れるビルの中で、コントロールを失った揺れる躰が自分であることを認めたくなかった。あれ以来、東京直下型地震のイリュージョンから逃れられないままの日々を送っている不条理が当り前になってしまっている。

期せずして、8年後の今日、有楽町の石綿クリニックを訪ねる。足がふらつくのは地震の予兆ではない。8年前も確かに足は乱れていたが、まさかその後遺症ではあるまい。定年20年が過ぎたサラリーマン画家はたっぷり8時間労働を勤めている。「60歳未満のサラリーマンの真似は止めなさい。午前中働いたら、午後は休息をしなさい」と石綿先生に注意される。疲れを取るための甘い物は気にしなくていい。
2019.3.12
 〈一日中、筑紫哲也サンニアチコチ移動シナガラ取材ヲ受ケル。『最後ニ1ツ、政治ニツイテ語ツテ下サイ』ト、如何ニモ筑紫サンラシイ質問。『ボクハ毎日政治的行為ヲ創造ヲ通シテ行ツテイマス。コレガボクノ政治デス。ゴダールノ〈男ト女〉ダツタカデ、男ト別レタアンナ・カリーナガ部屋ノカーテンヲ新シイノニ取リカエマス。生活ノ革命デス。コレモ政治デス』ト語ル〉夢を見る。筑紫さん、死してなおレポーターを続けている。因果な商売だねえ。就寝と同時に肉体から離脱したアストラル体は霊界に赴くという。そこで筑紫さんに会ったんだ。現世の習慣から抜けられないと言う。彼にとってこの仕事は「希望」だと言う。

庭の甕の中のメダカの新入りは今年初の越冬体験だ。水面に映る青空の中をオレンジ色のメダカがスイスイ泳ぐ。メダカも猫もぼくにとっては創造のエネルギーだ。

今日の収穫4点、計46点。
2019.3.13
 朝日新聞書評委員の送別会に行くギリギリまで制作。7人の委員を送るが、芸術関係の本を椹木野衣さんとなんとなく分担して書いていたが、椹木さんが辞めちゃうので負担がなきゃいいが。
2019.3.14
 小品ついに50点に達する。全作アンディ・ウォーホルの肖像だが、50人のヨコオのグループ展を目指したつもりが、やっぱり1人のヨコオ作だろうなあ。

サンタナのレコード・アルバムを作った頃のCBSソニーの4歳年下の大西さん逝去の知らせを受ける。退職した人達の消息はほとんど不明。その内誰もが不明になる。
2019.3.15
 豊島横尾館のガイドブックをカメラマンの今井さん、編集者の岩本さんを交えて最終チェック。

また今井さんには『アート・フォーラム』(U・S・A)の掲載広告用の撮影をしてもらう。

この1ヶ月で今日初めて絵を描かなかった。描かない日でも頭の中では休みなく描いている。具現化しないまま幻の作品で終ることもある。もしかしたら陽の目を見なかった幻の作品の方が多いかも知れない。人は眠りの中の夢の生活と同様に、現実に実現しなかった幻の行為も人生の一部であることを認めるべきではないかと思う。

相変らず歩くと船の甲板を歩いているように躰が持っていかれる。体内にアルコールを発酵させるホルモンがあって、それによって躰が揺れるのかも知れないとアホなことを考える。
2019.3.16
 〈ホテルニ母娘ガ泊ツテイテ、娘ガハードボイルド小説ノ作家デ、ボクニ挿絵ノ依頼ヲシタガツテイル〉という夢。

思い出したようにおしのびで突然来日したオノ・ヨーコさんがアトリエに遊びにくる。「目的はこのことだけ」だと言う。明日から2日間、当てもなく京都へ行って、そのまま帰国とか。まるで、近くのコンビニにブラッと行く感じだ。しかも車椅子でニューヨークからやって来るその行動力というか、意欲というか、衝動というか、こんな不自由な躰じゃ、普通の人間ならやらない。肉体の苦痛よりも精神の快楽を最優先するその好奇心は芸術家魂だが、ブラッと日本へ行って見たくなった、というこの無目的な気楽さに驚嘆と尊敬の念に感動さえ覚えるのだった。こういう人はぼくの友人の中では彼女以外誰もいない。あれこれ理由をつけて、止めときましょう、ということになるのが常識だけれど、彼女はそんな常識のルールでは計れない人。ジョンと世界と戦い、世界のカオスを渡り歩いてきた人は人を超えている。3、4人がかりで車椅子からの移動はどう見ても重病人にしか見えないが、その精神はいたって健全そのもの。100歳時のプロジェクトに夢を抱いて、2人の聴こえない耳同志の会話はほとんどテレパシー。
2019.3.17
 終日ボンヤリ無為。これから先に待つカオスを如何に遊ぶかが目下の夢。

夜、テレビで内田裕也死去を知る。(よこお・ただのり=美術家)
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