中国ドキュメンタリー映画論 書評|佐藤 賢(平凡社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月23日 / 新聞掲載日:2019年3月22日(第3282号)

中国ドキュメンタリー映画論 書評
本邦初・中国インディペンデント・ドキュメンタリーの生成と発展のありさま

中国ドキュメンタリー映画論
著 者:佐藤 賢
出版社:平凡社
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この本を待ちかねていた。世界の映画シーンを震撼させ続けている中国インディペンデント・ドキュメンタリー、それに関する本邦初の学術的専著である。

著者は、中国インディペンデント・ドキュメンタリーの誕生を1990年に呉文光が自作の私的上映会を開いた時点ととらえ、呉文光と彼に関わる「人的ネットワーク」を主軸に置きながら、撮影機材の物理的な変化、この分野の国際的な発展による思想の変化などの観点を絡めて、後発の作家を位置づけ、ほぼ20年間における多数の監督・作品・上映の状況を記述している。これでやっと、この分野の生成と発展のありさまが見えてきた。

特に、この分野の生成の段階におけるテレビ界との複雑な関係は、中国のテレビ界と無縁な私たちにとってわかりにくかったが、その点もよく解きほぐされている。中国の映像メディアのあり方と動向、日本やアメリカのドキュメンタリーや放送局の中国映像メディアへの影響も平易に説明されている。

本書の叙述の基本は、作品紹介・監督の経歴・作品の成り立ち・監督の言及(インタビューなど)・批評家の言及・映画界の評価といった要素から成り、監督と作品に関する基本的な情報が提示されている。監督や批評家の言及は、これまで翻訳されていない文献を多く訳出しており、中国語を使わない読者にとって参照価値が高い。情報量が多いので、索引がほしいところだ。

さらに、監督と作品だけでなく、上映会についても議論されている。上映をおこなってきた具体的なグループの基本的な情報が提示されていて、映像をめぐる社会史的な展望を与えてくれる。上映にともない、著者を含む日本人の参与や、日本のドキュメンタリー作家のこの分野への言及が多く参照されており、日中相互の交渉や作品をめぐる動向もよくわかる。

これから中国ドキュメンタリーを語ろうとしたら、基本部分をまず本書に依拠することになるだろう。画期的な出版だと言える。

以下、望蜀の言。まず著者の叙述方法だが、監督のインタビューや他説をモンタージュしたり、それらを著者の叙述にとりこんだりしながら論を進める傾向があり、自説を開陳することに禁欲的だ。監督の言及などはもちろん参考になるが、著者自身の分析や読み込みを今後に期待したい。王兵に関するような議論が、他の作品でも展開されてしかるべきだ。その一方で、先行研究への参照が少ないきらいもある。特に、欧米の研究が全く参照されていないのは惜しまれる。

また、評者と見解を異にする部分もあり、今後、検討していきたい。例えば、第2章「テレビ体制と独立ドキュメンタリー」の、ミケランジェロ・アントニオーニ『中国』とヨリス・イヴェンス『愚行山を移す』の影響について、著者の評価はやや過小に思われる(「映像としてのアジア」『専修大学社会科学研究所月報』№591参照)。第5章「中国独立ドキュメンタリーの現在」の胡傑『林昭の魂を探して』や王兵『鳳鳴』に関しては、そこで扱っている現代史の問題が、中国の歴史認識に対するある種の挑戦になっている点が指摘されるべきではなかろうか(土屋編『映像の可能性を探る』専修大学出版局、2018年3月参照)。第5章は「現在」と称しながら、扱っている作品が少し以前のもので、年表も2011年で終わっている。現在、中国インディペンデント映画は、2011年までと違って、制作も上映もより強力な法的な圧力を受けており、危機に瀕すると同時に、新たな生存空間を模索している。この分野の動きの速さに日本の研究成果が追い付いていないのは、評者にとっても他人事ではない。著者があとがきで言うように、徐童や趙亮・顧桃など注目すべき監督の検討は、今後の課題として重要だ。

とはいえ、この分野の研究が著しく遅れている日本では、中国研究者はもちろん、映画に関心のあるすべての人々にとって慶賀すべき出版であることは間違いない。
この記事の中でご紹介した本
中国ドキュメンタリー映画論/平凡社
中国ドキュメンタリー映画論
著 者:佐藤 賢
出版社:平凡社
以下のオンライン書店でご購入できます
「中国ドキュメンタリー映画論」出版社のホームページはこちら
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