田村隆一×加藤郁乎 『週刊読書人』1975(昭和50)年1月6日号(1月13日号合併)1~3面掲載 「目白」から「目黒」への道 新春放談|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年4月21日 / 新聞掲載日:-0001年11月30日(第1062号)

田村隆一×加藤郁乎 『週刊読書人』1975(昭和50)年1月6日号(1月13日号合併)1~3面掲載
「目白」から「目黒」への道
新春放談

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1975(昭和50年)新年号
1面
 田村隆一さんは定刻三十分前会場に到着、悠然と待機。定刻十分前に加藤郁乎さん登場。速記者が準備をおわるとすぐに、対談が始まった。タイトルは加藤さんの「詩篇」からとったもの。(編集部)
第1回
七十五すぎての脳のよし悪しがわかる

田村 
 田村 郁乎は幾つになったんだ?
加藤 
 四十五ですよ。もうじき六です。
田村 
 そうすると昭和三年ぐらいか。
加藤 
 四年ですね。
田村 
 じゃ、ヘビだな。
加藤 
 ほんとはタツなんですよ。前年の十二月が一月に延びちゃったから四年になった。
田村 
 じゃ昭和三年の子と、小学校や中学は一緒ですか。
加藤 
 一緒です。わたしは早生まれでしたから。
田村 
 そういうことでしょう。だから、そう考えれば、おまえさんとそう……。
加藤 
 またそういうこと言って。田村さん大正でしょう。
田村 
 大正なんて大したことないよ。元年がないんだから。元年というのは五日か六日か。そうすると、おまえさんとそう変わらない。
加藤 
 生まれたところは田村さんの近くですからね、わりかし。目白のところ。
田村 
 きみは、そのときは特権階級。
加藤 
 またああいう……。府下だったんですよ、むかしは。わたしのところは。目白。
田村 
 うちもそう。
加藤 
 田村さんのところ、大塚は、市内でしょうが。
田村 
 何を言ってんだよ。巣鴨村。北豊島郡巣鴨村というんだよ。町じゃねえんだよ。郡からすぐ村へいっちゃうんだよ。町はどっかにあったのかな。とにかく、ぼくの戸籍はね、北豊島郡巣鴨村字平松。だから、いわゆるとげぬき地蔵、山手線の巣鴨駅が巣鴨一丁目さ。それから大塚のほうにくるに従って二丁目、三丁目になって、うちがたしか六丁目でしょう。限界が七丁目で、おしまいなんだよ。電車通りを越して向こうへ行っちゃうと、たしか西巣鴨になって、こんどはむしろ池袋のほうへ、行政的にもいっちゃうらしい。そういうわけだ。
加藤 
 王子電車が走っていたんですね。
田村 
 じゃ、おまえさんは雑司が谷か。
加藤 
 雑司が谷の墓地にも近いですけれども、目白寄りのほうなんですよ。
田村 
 加藤君というのは特権階級です。
加藤 
 またそんなこと言う。
田村 
 ほんとなんです。
加藤 
 おやじが変なことをやっていたんですよ。江戸文学だとか、俳句の師匠みたいなこと。
田村 
 なにも照れることないじゃないか。堂々とやれ、堂々と。男は堂々とやるんだよ(笑い)。別に憲兵隊だとか、そういう悪いことをしているわけじゃない(笑い)。たかだか学者なんだろ。え? 一所懸命学者やってるんだから、いいじゃないですか。

トマト・ジュース飲むか、トマト・ジュース。
加藤 
 あなたから教わったV8なんか十分いただいてますから(笑い)。西脇さんにも田村隆一ご推奨のジュースですよ、なんて飲ませちゃった。
田村 
 どうも西脇さんがこのごろさえないのは、V8のせいだな、あれは。
加藤 
 近頃だいぶ手がふるえますね、あの先生。
田村 
 まあ、お年だしね。だけど、脳がしっかりしてるから。七十五すぎると、脳がしっかりしてれば持つの。からだはどうだっていいんだよ。それだけの話よ。
加藤 
 そうでしょうね。
田村 
 ぼくたちはほかのファクターで、どうにかこうにか持ってるんでね。だから、脳がいいか悪いかというのは、七十五すぎないとわからないだろうと思う。
加藤 
 田村さんのお宅は、ずうっと長生きの血筋ですか。
田村 
 だいたいね。おかげさまで。貧民だったから強いですよ。あなたの父上みたいに、中風とか糖尿病にならないわけよ。
加藤 
 脳溢血でいっちゃったんですよ。
田村 
 だからそれは特権階級で、美食やなんかやってたから。
加藤 
 イナゴ食べていたんですから、美食なんか……。
田村 
 いや、イナゴはいいんだよ。むしろ長生きする。イナゴ以前に美食やっていて、あとでイナゴ食ったってだめなんだ(笑い)。あわててV8飲むようなものだ。

そうすると、もうあなた、いい年増だね。四十六というとね、それは大年増だよ。むかしだったら年増といわないね。あなた女だったら何ていうのかな。まあ、バケネコだな。
加藤 
 うワハハハハ。
田村 
 いやァ、そう照れることないよ。あなたほめてるんだから。要するに人間になっていくわけだ。だからぼくたちもやっと人間になっているわけだ。それまではどうのこうのありますよ、こうね。さすがに男の子のことはあんまりむかしも言わなかったね。それは仕事をしているからね。男のことは言わないけれども、婦人に対しては言った。ぼくたちのころは。二十三ぐらいをきれいどころと言ったもの。二十三までがきれいどころ。二十三越すと年増になるわけだ。二十五、六をすぎると中年増だな。三十二、三で大年増だ。
加藤 
 もう三十二、三で?
田村 
 ああ、それはそうです。三十五、六からはレディね。それはもう婦人になるわけよ。ほんとうの意味の婦人になる。しかもそれが、全部満じゃありませんからね。数え年ですから、引いてくとたいへんなことになっちゃう。そうするとおれたちは、おばけを背負って懸命に生きているということになっちゃうな、オイ(笑い)。刀自(とじ)だよ、刀自。わたしの場合は刀自だよ。田村刀自。きみの女房に会うと大おかあさま。わたしはね、あなたのおかあさんが亡くなって、あそこへ家内と一緒にね、多磨墓地に、わが小庭に咲いていた沈丁花を植えに行ったんですよ。いいおふくろだった。ちょっと郁乎にはもったいないぐらいの。
加藤 
 ありがとうございました。
田村 
 育ってますか。季節がちょっとはずれているかもしれないけれども、沈丁花、強い木ですから、もしありましたらそれは……。
加藤 
 ちゃんと両親の墓にあります。ほんとうにありがとうございました。四月か五月ぐらいの季節になるとね、いい匂いがでるんです。ところで牛込の家の思い出もずいぶんありますね。
田村 
 牛込は、あなたのところでウンコをしてさ、お酒飲んだんですよ。
加藤 
 田村さんくると、二日ないし三日逗留なさるからね。わたしあの時分はまだテレビ局に勤めていたんですよ。
田村 
 そうそうそう。
加藤 
 「郁乎!」なんて新宿で会うでしょう。それで、おまえのところで風呂入れろ。昼近くに「じゃ、わたしちょっと行ってきますよ」と言うと、「ああ、行っといで」と言って送り出される。それで夕方帰ってくるじゃない。そうすると、「お帰り」(笑い)。おふくろの前に田村さんが玄関に出てくるんだよ。どうなってんのかってね。そうすると、女子おなごを呼べって言うの。おふくろと映画の話ししたり、江戸時代の芝居なんかの話してる。それで「じゃ、女呼べばいいんですね」と言って、電話で野中ユリとか桐島洋子なんか呼ぶのね。田村さん、女子をひょっとあれしてみてね、「ああ、女子っていいもんだな」なんて言いながらね、二日か三日ぐらいいる。それで、「おれは帰る」とか言って、保谷に帰られたんですよね。
田村 
 保谷だ。保谷におふくろがいたからこわいんだよ。行けないから、そこでウォーミングアップするわけよ。そこでヒゲ剃ったりね、二日酔の顔直したりさ。それは無精相身互いでね、やはりまずいんだよ。生んだ者に会うというのはまずいね。だから生んだ者に会うときは、ヒゲ剃るのが礼儀ですよ。きょうは生んだやつに会ってないから無精ヒゲはやしている。まさか郁乎からおれ生まれたんじゃねえだろうな(笑い)。
加藤 
 そんな覚えないもの、わたしは(笑い)。
田村 
 でも、あの鶴巻町はいい家だった。
加藤 
 あれは喜久井町です。鶴巻町の隣の町ですね。あそこに何回かきてくれましたね。
田村 
 あれはいい家だった。庭がよかったんだな。
加藤 
 ボロ家でしたけれども、庭だけはね。
田村 
 ぼくは、ああいうボロ家が大好きなんだよ(笑い)。ボロ家を見るとジーンとするわけよ。
加藤 
 羽アリが出ましたね、あの家は。
田村 
 それで、ご不浄がよかったしな。一々バケツ持っていって、サーッと流すんだよ。
加藤 
 よく覚えておられる。あれ、水洗便所の機械こわれちゃって、バケツで水入れたんですよ。あの便所で土方巽なんか寝ちゃうからね。
田村 
 でも、深いご不浄だからね、うまくできているんだ。ふつうの、ぼくたちみたいな団地スタイルだったら、とてもはずかしいけれどもね、深いご不浄だろう。またこれも郁乎にもったいないぐらいの奥さんがいるのよ。それからおばあちゃんがいてね。もう文化人よ。二人とも文化人。だから機嫌よかった。だからあそこでウォーミングアップしていくわけですよ。やはりウォーミングアップするんだって相手がいるんだからね、変なやつとウォーミングアップしたら、よけいダメになっちゃう。
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