ハイブリッド・エスノグラフィー NC(ネットワークコミュニケーション)研究の質的方法と実践 書評|木村 忠正( 新曜社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月30日 / 新聞掲載日:2019年3月29日(第3283号)

ハイブリッド・エスノグラフィー NC(ネットワークコミュニケーション)研究の質的方法と実践 書評
新たな学問の誕生
複合的な調査・分析を行うために

ハイブリッド・エスノグラフィー NC(ネットワークコミュニケーション)研究の質的方法と実践
著 者:木村 忠正
出版社: 新曜社
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エスノグラフィーは長らく社会調査の主要な方法のひとつであった。調査者は調査対象の人びとが暮らしている現場に参加・関与しながらその生活を記述する。調査者と調査協力者が同じ時間と場所を共有するフィールドワークがその基本だ。一九世紀以降、文化人類学をはじめとする人文社会科学がその手法を発展・洗練させてきた。
 他方、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)をはじめとするネットワークコミュニケーションにおいて、私たちは必ずしも時間と場所を共有しているわけではない。Yahoo!ニュースを読み、自分の意見をコメントする。あるいはTwitterに感想を呟き、意見と異にする他人とやりあう。FacebookやInstagramでは同窓会やデザートの写真をアップし、いいねをつけあう。……このような社会をどのように記述し、理解すればよいのだろうか。もはやエスノグラフィーの手法は時代遅れなのだろうか。

それだけではない。AI(人工知能)やビッグデータををはじめとするIT(情報通信技術)の発展を背景として、人文社会科学の学問全体に対する風当たりが強くなってきた。政界や産業界では人文社会科学の有用性に対する疑問が噴出しているとも聞く。このままいけば人文社会科学そのものが用済みになってしまうのだろうか。

この疑問に正面から取り組み、解答を与えるのが本書である。まず、人びとが時間と場所を共有しつつ行うやりとりがなくならない以上は、伝統的なエスノグラフィーの手法は今後も一定の有効性をもつだろう。だが、ネットワークコミュニケーションが私たちの生活において果たす役割がますます増大していることも事実であり、そこでは従来のエスノグラフィーをアップデートする新たな手法が必要とされる。それが本書の提唱する「ハイブリッド・エスノグラフィー」──定性的データと定量的データ/質的調査と量的調査を組み合わせる手法──である。いくらビッグデータの時代とはいえ、知りたいことのすべてがログに収まっているわけではない。文脈に即したきめ細かな質的分析がなければ、厖大なデータも宝の持ち腐れになってしまう。いかに定性と定量を組み合わせ、複合的な調査・分析を行うことができるかが問題なのである。その意味で本書は「人文社会科学の豊穣さを取り戻すためのチャレンジ」(「はじめに」)である。

本書は二部に分かれる。前半では、前述のように定性/定量を組み合わせるハイブリッド・エスノグラフィーの方法論が定式化される。エスノグラフィーが有する仮説生成・発見論的な価値を活かしながらそれを刷新しようとする方法的議論は、さまざまな分野の研究者にとって有益な内容であろう。後半は、ハイブリッド・エスノグラフィーの実践報告である。著者が取り組んできたデジタルネイティヴの生態、デジタルデバイドの状況、ネット世論の構造に関する調査研究とその知見が報告される。なかでも最終章で紹介されるネット世論に関する調査は、テキストマイニングとネットワーク可視化というビッグデータ解析とウェブアンケート調査を組み合わせ、さらにジョナサン・ハイトらの道徳基盤理論にもとづいた仮説生成を行うという非常に野心的な試みである。この研究をより包括的に展開させた新著が準備中とのことで、いまから公刊が楽しみでならない。

研究対象のフィールドが根本的に変容するとき、フィールドワークの技法もまた根本的に更新される。本書の臨場感あふれる記述から、読者は新たな学問が誕生する現場に立ち会う興奮を味わうことができるだろう。
この記事の中でご紹介した本
ハイブリッド・エスノグラフィー NC(ネットワークコミュニケーション)研究の質的方法と実践 / 新曜社
ハイブリッド・エスノグラフィー NC(ネットワークコミュニケーション)研究の質的方法と実践
著 者:木村 忠正
出版社: 新曜社
以下のオンライン書店でご購入できます
「ハイブリッド・エスノグラフィー NC(ネットワークコミュニケーション)研究の質的方法と実践 」出版社のホームページはこちら
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