植民地朝鮮の民族宗教 国家神道体制下の「類似宗教」論 書評|青野 正明(法蔵館)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月29日 / 新聞掲載日:2019年3月29日(第3283号)

植民地朝鮮の民族宗教 国家神道体制下の「類似宗教」論 書評
手堅い歴史学の方法によって朝鮮半島の近現代宗教を理解する視覚を提供する

植民地朝鮮の民族宗教 国家神道体制下の「類似宗教」論
著 者:青野 正明
出版社:法蔵館
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 三月一日は韓国の三・一独立運動百周年であり、光化門広場にて文在寅大統領が「親日残滓の清算」を促す演説をしたほか、各地で政治団体や市民によって日本の植民地支配を批判する集会が催された。独島(竹島)の領土問題、従軍慰安婦や徴用工にかかる謝罪・補償の問題で日韓関係が冷え込んでいる。

日本は、GHQの影響下で国家神道や軍国主義を批判することから戦後史を刻んできたが、韓国は光復後の南北分離独立、朝鮮戦争、休戦状態のなかで保守派は日本と緊密な関係を構築して開発独裁体制から今日の経済発展を築き、革新派は南北統一や植民地主義を批判しながら市民社会の形成をめざしてきた。日本の歴史認識には封建遺制やファシズムという内在的な他者が想定されたのに対して、韓国では日本それ自体を他者として歴史認識を形成している。帝国主義に対する認識と実感がまったく違うのである。

青野正明は、国家神道ではなく帝国神道であるという。台湾や朝鮮にとって天皇や国家の祭祀は国家神道ではなく、皇国の臣民化政策を担った帝国神道による同化政策だった(青野正明『帝国神道の形成―植民地朝鮮と国家神道の論理』岩波書店、二〇一五)。

本書のサブタイトルにある「類似宗教」とは、近代日本型宗教統制が生み出した宗教区分である。すなわち、宗教ピラピッドの最上層に非宗教の国家祭祀と天皇崇拝が位置し、中間層に国家への協力を求められる仏教や教派神道、キリスト教があり、最下層に統制の対象となる新宗教や民俗宗教=類似宗教が置かれたのである。

三・一独立宣言に署名した民族代表三十三名中、十五名が天道教の前教主と幹部、十六名がキリスト教牧師、二名が仏教僧であった。独立万歳のデモが全土に拡大するなかキリスト教会で地域住民が惨殺される堤岩里事件が生じ、運動に加わった女学生の柳寛順が獄死するなど武力鎮圧が続いた。その後、朝鮮総督府は文化統治の一環として民族運動の基盤となる類似宗教の抑圧と日本の公認宗教による朝鮮民族の教化を促進したのである(諸点淑『植民地近代という経験-植民地朝鮮と日本近代仏教』法藏館、二〇一八)。

本書では総督府資料と天道教と金剛大道の教団資料に基づき、植民地朝鮮における日本の宗教行政(一章から三章)と民族宗教側の適応と抵抗(四章と五章)が描出される。朝鮮総督府嘱託であった村山智順がとりまとめた『朝鮮の類似宗教』では、朝鮮民衆の民族宗教の特質として、①儒仏道の宗教総合化、②新時代の到来を説く後天開闢観、③民衆の苦悩をこの世で解決する地上天国思想、④教主による奇蹟や霊術、聖都建設や救世主信仰があげられた。

青野によれば、北部畑作地帯において天道教の朝鮮農民社による郷村自営運動が③の地上天国建設の典型例と見られる。伝統的農村の農務契(約)という合理性と天道教による「大通運」の時代という教説が農民を引き寄せたが、ほどなく総督府による農村振興運動と衝突する。また、南部水田地帯では金剛大道による鶏龍山の信徒村建設が④の聖都建設や教主カリスマの典型例として描かれる。弥勒大仏として下生したと信じられる教祖一族と信徒たちが新興部落や法堂施設などを建設するも、警察の取締対象となり、日本仏教への改宗という懐柔策や教主以下信徒の大量検挙という抑圧に直面した。全伽藍が撤去され、金剛大道は訴訟で抵抗するが、教主以下幹部が保安法違反で起訴され、教主は洞窟に身を隠して光復を待つことになった。日本の大本教と同じ弾圧の歴史があったことに驚く。

宗教の行政的管理と抑圧の方法は現代中国と北朝鮮で踏襲されているが、難を逃れた中国と韓国の民族的新宗教や新宗教的キリスト教には、現在でも「巫俗」的要素と「終末思想」が継承されている。本書は手堅い歴史学の方法によって朝鮮半島の近現代宗教を理解する視角を提供してくれた。図書館に所蔵されるべき資料性の高い書籍である。
この記事の中でご紹介した本
植民地朝鮮の民族宗教  国家神道体制下の「類似宗教」論/法蔵館
植民地朝鮮の民族宗教 国家神道体制下の「類似宗教」論
著 者:青野 正明
出版社:法蔵館
以下のオンライン書店でご購入できます
「植民地朝鮮の民族宗教 国家神道体制下の「類似宗教」論」出版社のホームページはこちら
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