スピノザ 力の存在論と生の哲学 書評|秋保 亘(法政大学出版局 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月30日 / 新聞掲載日:2019年3月29日(第3283号)

スピノザ 力の存在論と生の哲学 書評
スピノザ研究の王道
――緻密さと厳密さ、手堅さ――

スピノザ 力の存在論と生の哲学
著 者:秋保 亘
出版社:法政大学出版局
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 著者秋保氏が、かねてから精緻な論文を発表している若手の俊秀であるだけに、書評依頼に、「こりゃ読むのがしんどいぞ」と思ったのは本当。だが、それら論文がどのように全体像を結ぶのかとの期待もあり。出来上がった本書は「体裁の整った若手の博論」の域を越え、スピノザ研究の王道に属するものとなった。「決定論」「汎神論」といった一般的レッテルに依存せず、スピノザ自身が用いた言葉の精錬と構造化を目指してテキストを舐めるように内在的理解を進める。属性問題など派生的にしか扱われない重要トピックこそあれ、それも根本問題に集中するためである。

その問題、個別的な生に定位した確実なものの探究。これを哲学者自身が一人称で語った未完の『改善論』を、秋保氏は改稿され続けた多層的なテキストと読む。つまり、スピノザはこの問題を放棄したのではない。この問題に示された倫理学志向こそ彼の思想形成の通奏音なのだ(一章)。

だが、個別的なものの確実な認識に至るには、眼前にあるもののみならず、それを取り巻く全体が学知にもたらされねばならない。にもかかわらず、基礎となるべき定義論、個別的なものの基盤とされる「確固永遠なるもの」の説明で困難に陥る『改善論』(二章)。

この解決は『エチカ』一部に求められる(三章)。刷新された定義論に基づいて、実体が「真理領野そのもの」として提示され、更にあらゆるものを産出せざるを得ない(潜在・可能性ではない)力能として取り出される(「力の存在論」)。

四章は、こうした力能発現の内実を原因性として押さえることで、スピノザ形而上学の地平を見晴らしよく開いている。作用因による被造物と作用因なしに実在する神とを区別するデカルト。神に原因性が適用されるとしても、それは類比的にである。だがスピノザは、実在する全てのものに作用因としての原因性を一義的に見出し、実在と本質が同一である実体を自己原因的・必然的に実在・産出する力能として、また有限な個物も実体の力能を表現する必然的に産出的なものとして、両者を統一的に把握するのである。

ここから様態論に入る。個別的なものの消極的性格としての有限性と積極的本性とを『エチカ』二部に即して探究し、三部冒頭のコナトゥス概念に落とし込む五章を経て、個別的なものの「いまここ」の実在(本質ではなく)にすでに永遠なる生が実現されていることの理法を描き出す六章に至る。

だが、概要だけでは本書の意義は明らかにならない。見るべきは、論究に当たる著者の緻密さと厳密さ、研究動向を押さえた手堅さで、この点を最もよく示すのが四章である。一方、個別性がどのように具体化されるか(ライプニッツ、ヘーゲル以来のスピノザ批判の要)の解明を期した五章は挑戦的である。評子自身は特に五章後半が十分に消化できていないが、こうした挑戦が更に他の研究者に検討されてこそ研究の新生面は開かれよう。

しかし、本書全体の眼目はやはり、『改善論』以来のスピノザの倫理学志向を起点とすることにある。我々は「生の理解から締め出されているがゆえに、生に到達していないのではないか」(「はじめに」)。形而上学が要請されるのも、この「生の理解」のためであった。

ただ本書のこの特徴は、著者自身によって幾重にも削がれる。副題にも倫理学は表立たされず、本論でも『エチカ』の倫理学的部分はほとんど扱われない。これは、スピノザ形而上学それ自体が慎重な読みを要するからであろうし、技術的処理でもあったろう。では、この制約(リミッター)を外したら? 論究を通し、『エチカ』が文字通り何よりも倫理学(しかも、この生を離れた永遠への欲望ではなく、身体とともにある生を肯定する特異な倫理学)であることが見出され、「結論」で示されるのも、単なる本論の要約というより、その延長上にある思索の素描に見える。若い秋保氏のこの先をこそ見てみたい。その基礎は既に築かれた。
この記事の中でご紹介した本
スピノザ 力の存在論と生の哲学/法政大学出版局
スピノザ 力の存在論と生の哲学
著 者:秋保 亘
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
「スピノザ 力の存在論と生の哲学」出版社のホームページはこちら
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