次の人、どうぞ! 書評|酒井 順子( 講談社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年3月30日 / 新聞掲載日:2019年3月29日(第3283号)

多様性の枠を広げる見巧者のまなざし
徹底して俯瞰し、新しい時代をどう予測するか

次の人、どうぞ!
著 者:酒井 順子
出版社: 講談社
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次の人、どうぞ!(酒井 順子) 講談社
次の人、どうぞ!
酒井 順子
講談社
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 本書は、「週刊現代」に連載中のコラムの、直近一年間に書かれたものの中から、五十本を選んで編まれたエッセイ集。

読み進むうちに、なぜか無性に十五年前の作品『枕草子REMIX』を思い出した。著者三十八歳の時に書かれた、まさに酒井順子ワールドの白眉といえる、大好きな一冊である。ちょっとひんやりとした、水晶のような手触りのある独特の諦観と、十代で「オリーブ」誌に連載していた頃から変わらない、少女性と老成したまなざしとが生き生きと炸裂する傑作中の傑作だ。

清少納言と酒井順子に共通する点はいくつもあるが、わたしが特に好きなのは「テレ屋」という資質。男気があり、あらゆることに目端が利き、極度に自覚的、でも根のところは純情で「自分をあくまで客観視しながらも、露悪的ではない」そのキャラクターは、品がある。だから女たちの中にいて、ちょっと引いた独特の立ち位置を保っているのだろう。

そんな酒井さんが、来たる新しい時代をどう予測するか。これは読まずにはいられない。目次に目をやると、これからの世はますます一筋縄ではいかなくなりそうな気配が。

「女性主導セックスの次世代」では、「性について、女性が受け身でいても、もう何も始まらない」という現実が説かれ、「アラフィフ人生いろいろ」では、金と根性の匂いがする美魔女に対し、再ブレークしている石田ゆり子は「百年という人生のスケールに合わせて生きていたら、老けるのも結婚するのも忘れていた」感じの「無臭の美貌」が日本人に受ける、と喝破する。そしてこれからは、結婚、出産、子育てから不倫そして介護まで、つまり生まれてから死ぬまで「自分でなんとかしなくてはならない時代」なのだ、と。

この世を舞台にたとえるなら、酒井順子はいわば手練れの見巧者といえる。ものごとを徹底して俯瞰し、その多様性の枠を広げて見せてくれる。

「一人が好きな高齢者もいる」ことが認知されることを願い、孤独死という言葉も、単なる死の一形態として他のニュアンスなく使用されるといいな、と語る。これからの時代は、どう生きてもどう死んでも許してくれる世であってほしい、と酒井さんが言うと、何だかホッとして、不安で緊張していた首筋が和らいでいくような気がする。

しかし一方、ひとの心の陰翳が喪われていきそうな時代の到来に、酒井さんはどこか白々とした心持ちでいるのではなかろうか、とも思う。だからかもしれないが、本書のなかでも、鉄道や卓球、一人旅、漢字や詩といった自身の趣味について書かれたコラムは瑞々しく、読んでいて心が弾んだ。

もしかして、酒井さんは、『次の人、どうぞ』と、自分は横によけて、後から来る人たちに道を譲ろうとしているのかもしれない。それはそれで潔いけれど、まだしばらくは、わたしたちと一緒に伴走してください。
この記事の中でご紹介した本
次の人、どうぞ!/ 講談社
次の人、どうぞ!
著 者:酒井 順子
出版社: 講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
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