ジャン・ドゥーシェ氏に聞く「映画/映画作家/映画批評」

〈次号へつづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)
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更新日:2019年4月2日
/ 新聞掲載日:2019年3月29日(第3283号)
連載 スカンジナビアの映画の伝統 ジャン・ドゥーシェ氏に聞く100

ヨーロッパ映画賞授賞式にて(2010年代後半)
HK
言葉、むしろすべての音は、小津映画のシステムそのものではないでしょうか。JD
その通りです。小津が登場人物たちを配置する方法は聴覚的なのです。言葉の視覚的重要性は、その点からを明白です。HK
フォノロジーのようなものでしょうか。JD
そのように言えるかもしれません。小津に限らずとも、偉大な映画作家たちが、どのようにして言葉をとらえていったのかを見ることは、非常に重要なことです。悪い映画作家たちは、(登場人物に)話をさせるだけなのです。HK
ところで、ベルイマンの映画の視覚的面をどのように見られていますか。視覚的と言いたいのは、写真的要素のことです。スウェーデンの映画作家にとっての伝統のようなものであったのではないでしょうか。ベルイマンの、フォーロ島のドキュメンタリーを思い出してください。ドキュメンタリーだけでなくとも、フォーロ島は『ペルソナ』や多くの作品の舞台となっています。死没地にもなるくらい、彼の愛していた土地です。そのような場所へとベルイマンがカメラを向けると、スウェーデンの自然がこの上なく見えます。自然の厳しさの只中にある生活が見えてきます。その意味で、ベルイマンも、スカンジナヴィアの先人たちのように映画が撮れたのだと思います。JD
ベルイマンは、真実を撮るのです。生の真実です。変わることなく同じことです。問題となるのは、生なのです。一方で大多数の人々が行なっていることは、―よく理解できることだと思いますが―スペクタクルをでっち上げることなのです。全くもって異なることです。HK
そのような理解から、映画史におけるスウェーデンの最も偉大な二人の映画作家―シュストレムとスティッレル―についてはどのようにお考えですか。JD
本当に好きな映画作家です。HK
それでも、あまり会話に出ることはありませんね。JD
私は、それでも比較的多く話をしている方だと思います。私にとっては、とりわけシュストレムの『風』などが強い印象を与えています。彼は、映画が何であるかを完全に理解していた映画作家です。HK
映画の歴史を通じて、厳しい自然の中の人間を描くことができたのは、スカンジナビア半島、特にスウェーデンの映画監督だけだったのだはないでしょうか。アメリカ人は、決してそのような自然のあり方を見せることはできませんでした。JD
非常に単純なことですが……私の、個人的な解釈にすぎませんが、スウェーデンという土地が大きな要因であるはずです。映画が存在するということは、つまり世界のイメージを与えるということです。そして、スウェーデンという国には、特殊な環境があります。映画が世界を表象するというものであることから、映画に関わろうとする人々は当然スウェーデンを表象します。いかにしてスウェーデンを表象できるのでしょうか。最も理にかなったものは、固有の環境を見せることです。その時代の作品をよく見ると、すべてが環境についての映画であることが容易にわかるはずです。『風』では風を視覚的に見せることが重要なテーマになっています。HK
確かに言われた通りだと思います。しかし似たような環境にあっても、ソヴィエトの映画は特殊な環境を取り上げることはできなかったと思います。ドヴジェンコですら、自然が撮れていたとは思いません。彼の場合は、撮ろうと思っていなかったと言った方がいいかもしれません。JD
それは簡単な理由です。彼らにはイデオロギーがあり、いつも同じ話を繰り返すことが義務付けられていたからです。HK
それでも一応、二つの話はあったはずです。「レーニン万歳」と「スターリン万歳」です。JD
(笑)……あまり大きな違いではありません。いつも同じ話の繰り返しです。そのような点には本当にうんざりします。HK
話が少し逸れてしまいましたが、無声の時代のデンマーク映画もスウェーデンと似たところがあると思います。〈次号へつづく〉
(聞き手=久保宏樹/写真提供=シネマテーク・ブルゴーニュ)


ジャン・ドゥーシェ(じゃんどぅーしぇ)映画監督
フランスの映画監督、映画批評家、映画教育者、俳優。ソルボンヌ大学卒。監督作品に「パリところどころ」第三話「サンジェルマン・デ・プレ」など。一九二九年生。
フランスの映画監督、映画批評家、映画教育者、俳優。ソルボンヌ大学卒。監督作品に「パリところどころ」第三話「サンジェルマン・デ・プレ」など。一九二九年生。
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