対談=吉川浩満×綿野恵太 ダーウィニアン・レフト再考 連続トークイベント〈今なぜ批評なのか〉第一回載録|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年3月29日 / 新聞掲載日:2019年3月29日(第3283号)

対談=吉川浩満×綿野恵太
ダーウィニアン・レフト再考
連続トークイベント〈今なぜ批評なのか〉第一回載録

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第2回
レフトってなんだ?

吉川 浩満氏
吉川  
 ところで、経済学者の松尾匡さんは左翼を次のように定義しますね。世界を上と下に分け、下を支援する、これが左翼であると。シンガーの左翼観もほぼ同じです。そして従来の左翼を次のように批判します。左翼のプロジェクトがうまくいかなかった理由は、人間本性など存在しない、それは社会的諸関係の総体にほかならないという考えにとどまっていたからだ。今後は、レガシーとしての生物学的な形質、場合によっては文化までを含めてもいいけれども、そうした人間本性論に立脚して世直しを考えていかないとまずい。これまでのレフトは、方向はよかったけれど、そうした発想がなかった。頭の中で考えた理想がそのまま実現すると思っていた。だから失敗したんじゃないかと。
綿野  
 人間本性に関する正しい知識を左翼は持っていなかったということですね。
吉川  
 そういう挑発だったと思います。ただ私が思うに、シンガー的なダーウィニアン・レフトはダーウィニアン・レフトでけっこう大変なんですよ。人間本性に立脚してといっても、思った通りにいかないことも多くて、めちゃくちゃいろんなシミュレーションやネゴシエーションが必要となるわけです。虐げられた人がいるからといって、ただ虐げている奴ら全員のクビを切ってしまったら、こんどは別の奴が虐げる側に回るだけだ、だからコストとベネフィットの綿密な計算が必要である、という。こういうふうになったらいいと思うが、そのままやろうとすると人間本性上ああなっちゃうだろう、だからこういうふうな仕組みをつくろうとか、そういうことをすべて計算していったら、ものすごく時間と労力がかかる。

リベラルのジョセフ・ヒースや、ジョシュア・グリーンみたいな功利主義者も、シンガー的な意味ではダーウィニアン・レフトなんじゃないかと私は思っています。そう考えると、左翼(レフト)ってなんだろうと思いますね。たとえば、綿野さんの批評の根本にある「横議横行」の津村さんには、人民の結集と蜂起という基本的なモチーフがある。めっちゃ熱い。それに対してシンガーのダーウィニアン・レフトのアイデアは、人間社会というのは頭のなかで考えた通りに物事がいかない可能性が高いから、人間本性を考慮に入れていろいろと計算しなければならないということですよね。いわば主意主義と主知主義で、ダーウィニアン・レフトと新左翼とでは方向性が正反対ですね。
綿野  
 そうなると、ダーウィニアン・レフトは改良主義的な左翼ということになるのか。もしくは、人間本性をもとに政策のコストとベネフィットを計算するのだから、官僚的な左翼。革新官僚みたいなものですかね。

そういえば、アナキズムも独自の人間本性論にもとづいた政治理論なわけですよね。クロポトキンは生物における相互扶助を考えた。人間本性にもそんな相互扶助の精神が残っていて、国家や貨幣を倒せば、相互扶助の共同体が復活するだろう、と。
吉川  
 はい。細かいことを言えばいろいろありますが、クロポトキンは、当時としては非常に例外的だったんじゃないでしょうか。人間本性をもとにしたアナキズムと言えばいいのか、一〇〇年後に進化生物学が見いだすような互恵的利他主義みたいなものを、相互扶助論として考えていた。

先程挙げたシンガーの本の『現実的な左翼に進化する』という邦題は、いっけん奇をてらったものに見えるかもしれませんが、けっこうよくできていると思います。ここでいう「現実的」とは、レガシーを踏まえたうえで、可能なるものを見積もり、その範囲で物事を進めていきましょうということです。でもこれは、どう考えても、新左翼からしたら許すことはできないだろう。そんなの左翼じゃないと思うんじゃないでしょうか。私の頭に浮かんだのは、スラヴォイ・ジジェクの「不可能なことを求めよ」という言葉です。左翼という言葉の振れ幅の広さに、ちょっと目眩がする思いがします。
綿野  
 「リアリティ」じゃなく「リアル」、ラカンのいう「現実界」を求めよ、と。
吉川  
 同じ「現実」でも、ダーウィニアン・レフトの現実とラカニアン・レフトの現実とでは意味がひっくり返っていますね。ここにいるみなさんも自分の心の中にそれぞれのレフトを住まわせていることと思いますが、今日は帰り道にでも「レフトってなんだ?」と考えてみていただけたらと思います。
綿野  
 吉川さんと対談することが決った時、橘玲さんのお仕事をどう思っていらっしゃるのか、お聞きしたいと思っていました。今年一月に刊行された『もっと言ってはいけない』(新潮社)では、知能において遺伝の影響が大きいとする科学的な知見を紹介しています。男女の能力において平均的な差があるという説もですが、一番に大きく取り上げられているのは、人種と知能の問題です。詳しくは橘さんの著作を読んでいただきたいと思いますが、人種(大陸系統)のあいだに知能指数に大きな統計的な差があるとする説を紹介しています。たとえば、国ごとのIQの平均の表を載せています。たしかにスポーツなどを見れば明らかですが、体格や身体面で人種間に統計的な差があることはなんとなくわかっている。
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この記事の中でご紹介した本
人間の解剖はサルの解剖のための鍵である/河出書房新社
人間の解剖はサルの解剖のための鍵である
著 者:吉川 浩満
出版社:河出書房新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「人間の解剖はサルの解剖のための鍵である」出版社のホームページはこちら
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