石戸諭×佐々木紀彦×猪瀬直樹 元号が変わる! 森鷗外から八瀬童子まで、日本近代と天皇制を読み解く。 日本文明研究所 第十五回シンポジウム載録|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年4月5日 / 新聞掲載日:2019年4月5日(第3284号)

石戸諭×佐々木紀彦×猪瀬直樹
元号が変わる! 森鷗外から八瀬童子まで、日本近代と天皇制を読み解く。
日本文明研究所 第十五回シンポジウム載録

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二〇一九年二月七日、日本文明研究所の第十五回シンポジウムが行われた。「元号が変わる! 森鷗外から八瀬童子まで、日本近代と天皇制を読み解く。」というタイトルでパネルディスカッションを行ったのは、ジャーナリスト、ノンフィクションライターの石戸諭氏、NewsPicks CCO、NewsPicks Studios CEOの佐々木紀彦氏と、当研究所所長の猪瀬直樹氏。四月一日には新元号「令和」が発布され、五月一日に改元、新天皇の即位式が行われる。その直前に、元号のもつ歴史的な意味や、日本という国について、改めて考える時間となった。その内容の一部を載録する。   (編集部)
第1回
生前退位と東京五輪

猪瀬 直樹氏
猪瀬 
 平成の天皇陛下が譲位のご意向を公に示されたのが、二〇一六年夏のことでした。二度の外科手術に加えて八〇歳を越える高齢であり、体力面から象徴天皇としての重い務めを果たすことが困難であるということが、その大きな理由です。ただお言葉の中に、「皇室のしきたりとして、天皇の終焉に当たっては、重い殯の行事が連日ほぼ二カ月にわたって続き、その後喪儀に関連する行事が、一年間続」くことが言及されました。このことは今回の生前退位の、重要なポイントではないかと考えています。

昭和の終わりを思い起こしてみると、昭和天皇のご病気について知らされたのが、昭和六三(一九八八)年九月のことでした。ソウルオリンピックが行われていましたが、自粛により、生中継がかなり減りました。

二〇二〇年には、オリンピックの祝祭空間が、日本にやってくることが予定されています。そこに自粛をよぎなくさせる事態が起こる可能性まで考えて、今上天皇は譲位を口にされたのだと思うのです。国家全体が喪に服することになる天皇崩御、改元、即位という一連の儀式が、国際的な祝祭空間となる二〇二〇年に重ならないように、配慮されたのではないかということです。

天皇の葬儀を御大喪といいますが、明治天皇も大正天皇も昭和天皇も、その御遺体は「朱漬け」になりました。朱肉の「朱」です。そして明治天皇は伏見桃山陵に、大正天皇と昭和天皇は武蔵野御陵に土葬されています。天皇をはじめとする皇族が亡くなったとき、陵墓まで棺を担ぐ役割を担っていたのが、現京都市左京区にある八瀬村の人たちでした。

僕は一九八一年ごろ八瀬村を取材し、八瀬童子という人たちに会って、『天皇の影法師』という本を書きました。それまでは、柳田國男がその著書で、比叡山の開祖である最澄が延暦寺の雑役として使った「鬼の子孫」だと書いた、ある意味伝説の人びとでした。

大正から昭和天皇が亡くなるまでに、六〇年以上経っているので、大喪の儀も八瀬童子の存在も、すっかり忘れられていました。ただそういう役割を担った人びとがいたことが、僕の本で分かり、昭和天皇崩御のときにも、伝統的な儀式が行われたわけです。その時実際に担いだのは、八瀬童子の装束を着た皇宮警察の人たちで、八瀬童子会の会長らは、付き添いで指導して傍らを歩きました。

八瀬村には、後醍醐天皇が足利尊氏に追い詰められたときに、八瀬童子が後醍醐天皇を神輿にのせて担ぎ、比叡山を越えたという伝説があります。そのときからの御恩と奉公の関係で、八瀬村は長きにわたり、税金を払わなくていい赦免地特権を受けることになります。

八瀬の人たちの日常の仕事は薪売りでした。八瀬は畑が少ないため、比叡山界隈の山に入り、柴や薪を刈って京都の街に売りに行ったのです。八瀬から十キロ程歩くと、京都市左京区の端にある出町柳に至ります。八瀬よりさらに奥は大原です。薪を担いで京都の街中に売りに行く、八瀬や大原の女性たちは大原女、あるいは小原女と呼ばれました。八瀬や大原はいってみれば京都の街の燃料基地で、同時に八瀬の人々は、天皇の棺を担ぐ役割で、臨時収入を得ていた。さらに天皇家との繫がりによって、わずかにもっていた田んぼの税金を納めなくていいという特権を得ることができた。そういう非常に特別な村が存在したのです。

先日、石戸さんが八瀬に行ってきたということですので、最近の八瀬がどうなっているのか、現地レポートをお願いしたいと思います。
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この記事の中でご紹介した本
天皇の影法師/中央公論新社
天皇の影法師
著 者:猪瀬 直樹
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「天皇の影法師」出版社のホームページはこちら
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