本の未来を探す旅 台北 書評|内沼 晋太郎 ( 朝日出版社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年4月6日 / 新聞掲載日:2019年4月5日(第3284号)

本の未来を探す旅 台北 書評
台北出版界「独立系」シーンの現在を伝える一冊
日台の本の「未来」と「これまで」 刊行イベントも

本の未来を探す旅 台北
著 者:内沼 晋太郎
編集者:綾女 欣伸
写真家:山本 佳代子
出版社: 朝日出版社
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 カフェやギャラリーを併設した個性派書店、ひとり出版社の立ち上げ、リトルプレスやZINEの流行など出版界におこる「独立系」の波。一五年ほど前から町の書店の閉店が相次ぐのと反比例して、目立ってきた傾向だが、実は日本のみならず、東アジアで一九八〇年代生まれの若者を中心に、同時多発的に起こっているという。

本書は前作の韓国「ソウル編」に続いて台湾の出版文化をリードする書店主や編集者、ブックデザイナーなど三一人へのインタビューから台北の「独立系」シーンの現在を伝えるものだ。なぜ独立するのか、その理由や目指すもの、課題などについて個々の代表者の声に加えて、アジア最大の大型書店「誠品書店」や国内最有力のオンライン書店「博客來」関係者らの取材も交え、「独立系」をとりまく出版市場や歴史など、台湾特有の大きな背景についても丹念におさえている。

私事だが三年前、本好き本屋好き十数人と連れ立って、台湾の独立系書店や出版社を巡る二泊三日の旅をした。今回、本書に掲載の本屋も、この週刊読書人紙上でいくつか紹介した。最初の驚きは文字の読めない、海を隔てた国の小さな本屋で、まるで日本の本屋にいるような感覚を覚えたこと。この親近感の源は何なのか。それでいて店主の趣向や志を色濃く反映した店づくりや、やんちゃな匂いのするブックデザインに、どこか日本の一歩先をいく活気のようなものを感じる。その理由が本書を読んでわかってきた。

台湾で戒厳令が解かれ、出版に自由の風が吹き込んだのは一九八七年(韓国の民主化と同年)。出版の歴史が若く、現在台湾の新刊のうち約二五%が海外翻訳もの、うち四〇%が日本の書籍だ。身近な出版先進国である日本の本はもちろん、欧米の本の多くも日本語版を介して吸収してきた背景がある。文化的な土壌に日本と共通点が多いのも自然なことだ。台湾の独立系シーンを語る上で欠かせない言葉が「文青」と「小確幸」。前者は文学青年の略で台北に住む知的カルチャー層、後者は村上春樹の造語に端を発し、小さくとも確かな幸せを求める近年の若者たちの風潮を指す。地方への移住も増えており、日本が三・一一以降に得た、「原点回帰」する時代の価値観にも通じるところがある。

とはいえ、台湾の人口は約二三〇〇万人、日本の約六分の一、人口あたりの出版点数は約四倍。周辺の中国語圏へ広がる可能性もあるが、国内の出版の条件ははるかに日本より厳しい。そのせいか地域の文化拠点としての独立書店を行政が後押しする動きもあり、五年ほど前から開業時に補助金が出ているという(ただし本書に登場するのは補助金に頼らない強者揃いだが)。日本の再販制のように書籍の定価を統一に定める法案も近くまとまりつつあり、「独立系」書店が割引幅の大きいネット書店に抗しうる可能性も出てきた。このあたりの八七年以降、誠品書店の台頭を経て、ポスト誠品書店時代の「独立系」湧出に至る背景については、台湾で今一番の注目を集めるカルチャー誌『新活水』編集長のインタビューに詳しい。

興味深いのは、編著者の内沼晋太郎氏(NUMABOOKS/本屋B&B)と綾女欣伸氏(朝日出版社)による仮説である。人口が少なく、マイナー言語で市場条件が厳しい国は出版の「課題先進国」であり、優れた創意工夫が生まれやすい、というのだ。もともと小人口の台湾や韓国の出版シーンの現在を知ることは、人口減少社会の日本の出版界が、今後直面する近未来の予測につながる、というわけだ。


日台の「本の未来」探るべく二月に開催された刊行イベントでは、同書に登場した台湾を代表するライフスタイル誌『小日子(シャオヅーズ)』発行人劉冠吟(ローラ・リュウ)氏、台湾のひとり出版社の代表格、逗點文創結社(カンマ・ブックス)の陳夏民(シャーキー・チェン)氏の二人を迎え、内沼氏・綾女氏、花田菜々子氏(HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE店長)を交えて行われた。

シャーキー氏は台湾の独立系出版社三〇社による「独立出版連盟」の顔的な存在で、余談だが私の編著書、『〝ひとり出版社〟という働きかた』(河出書房新社)の台湾繁体字版『一個人大丈夫』(柳橋出版社)刊行に際し、感動的な序文を寄せてくれた人でもある。台北国際ブックフェアでの、趣向を凝らした共同ブースの展示が、国内外で毎年、話題を集めているが、日本や韓国に先駆け独立系出版社の組織化が進んでいる点にも注目だ。

『小日子』は創刊三年後の二〇一五年より多角的なショップ運営によって廃刊寸前だった雑誌の立て直しに成功した。国内に六店舗を構え、発行部数二万部のうち半分が中国・香港はじめとする中国語圏へ配本されている。ショップと同様、ヴィジュアル的に洗練された誌面が主要読者層の一八~二七歳の若者をとらえ、「我」の一人称ではじまる独特の文体で、スマホ世代の個の生活に入りこむ。雑誌の世界観を体現するショップが全ての入口であり、オリジナルグッズも雑誌の存在をアピールするための動くメディアという。広告収入に頼らないショップの収益による経営の自立は、編集方針の理想を維持すると同時に、読者を日々肌で感じることで編集内容との好循環をなしている。

シャーキー氏も出版社とともに本屋「讀字書店」の運営しており、著者とファンによるディナー会を定期開催するなど読者の顔や反応を見ることを重要視している。本屋からの生中継をSNSで動画配信し、反応があった百人以上のサイトをさかのぼり、傾向をプロファイルすることもあるという。両者をはじめ本書に登場する面々は副業に積極的で本につながるあらゆる可能性を実践し、模索する姿が特徴だ。これからの本や本屋を考える上での具体的なヒントがある。

また日本の書店について、ローラ氏は神保町のような古い本の街が今も残り、高額の古書が売れることを「イケてる」と話し、シャーキー氏は電車の時刻表そのままの本に「スマホに慣れない年配向けの本だとすぐわかった」と驚きを語った。本は何かの答えを探す場所、人々のあらゆる趣向をひとつも切り捨てない日本の本にはすべての答えがあるとし、日本の出版の「未来」ばかりか「これまで」にも光をあててくれた。
この記事の中でご紹介した本
本の未来を探す旅 台北/ 朝日出版社
本の未来を探す旅 台北
著 者:内沼 晋太郎
編集者:綾女 欣伸
写真家:山本 佳代子
出版社: 朝日出版社
以下のオンライン書店でご購入できます
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