絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない  絲山秋子著 |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

出版メモ
更新日:2019年4月6日 / 新聞掲載日:2019年4月5日(第3284号)

絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない
絲山秋子著

このエントリーをはてなブックマークに追加
「人間は自分の意思では虫歯ひとつ治せません」。著者の絲山秋子さんは心が波立つとき、自分にこう言い聞かせるという。絲山さんは作家になる以前の一九九八年に双極性障害を発症。二〇年にわたりこの病いとつきあい、現在は「寛解」、「薬ゼロ=処方箋なし」の状態。「特効薬」も「完治」もないと言われるこの病いだが、主治医とともに「完治」を目標として通院を続けている。本書はその二〇年のふりかえりと、当事者からの心得を綴った貴重な記録である。

絲山さんは、二〇〇三年に「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞、二〇〇四年「袋小路の男」で川端康成文学賞、二〇〇五年『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞と順調に作家歴を積み重ね、二〇〇六年に「沖で待つ」で芥川龍之介賞を受賞。二〇一六年には『薄情』で谷崎潤一郎賞を受賞している。しかし、本書を読んで驚いたのは、それまで「小説家になりたいと思ったことは一度もなく、文章を書く趣味もなかった。」ということである。一九九八年夏までは、「仕事にはやり甲斐も愛着もあり」「あれほど悩みやストレスのない時期もなかった」という絲山さん自身がうつの診断には周囲と同様驚きもし、納得がいかなかった。きっかけは、一九九九年に自殺未遂した後の入院だった。退屈しのぎにコンビニで買ってきたノートに会社員時代の面白い先輩のエピソードなどを作文として書いた。そのときはそれが面白くて毎日書き続け、小説を書き始めたのは退院後だったという。よく誤解されることだが、小説を躁状態で書くことはない、フラットな精神でないと小説は書けない、と絲山さんは述べる。本書の冒頭で、病気のときに一番問題になるのは、「判断に支障をきたすこと」だとある。そして、当事者が一番欲しいものは、アドバイスや共感、ましてや「どうして病気になってしまったのか?」と質問することではなく、「理解」だと訴える。現在も執筆のほか、「生き甲斐」といえるほど好きなラジオの仕事や大学での講義などをこなす絲山さんだが、病いとともに作家人生を歩んできた過程で自分の不器用さ=発達障害も発見する。本書では双極性障害のこと以外にも、発達障害界隈のこと、依存、加齢、女性性、ハラスメントなどについても考察。本書をしめくくる言葉には、当事者だからこそ伝えられる力強いメッセージが込められている。

絲山さんは、医師にこの病気についての「無敵のマニュアル」を望むが、本書は作家の極上の言葉で紡がれた「絲的無敵マニュアル」なのである。(四六判・一七六頁・本体一三〇〇円・日本評論社☎〇三―三九八七―八六二一)
この記事の中でご紹介した本
絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない/日本評論社
絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない
著 者:497
出版社:日本評論社
以下のオンライン書店でご購入できます
「絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
絲山 秋子 氏の関連記事
出版メモのその他の記事
出版メモをもっと見る >
人生・生活 > エッセイ関連記事
エッセイの関連記事をもっと見る >