サンデル教授、中国哲学に出会う 書評|マイケル サンデル(早川書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年4月13日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

サンデル教授、中国哲学に出会う 書評
哲学議論を通した現代政治の反省
中国におけるサンデル受容の独自性

サンデル教授、中国哲学に出会う
著 者:マイケル サンデル、ポール ダンブロージョ
翻訳者:鬼澤 忍
出版社:早川書房
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日本中でサンデル・ブームが巻き起こったのはもう一〇年近く前の話である。時をほぼ同じくして、特に東アジアを中心にして、日本以外のさまざまな国でも同様のブームが巻き起こっていた。本書は、中国におけるサンデル・ブームの余波の中で出版されたものであり、同地におけるサンデル受容の独自性を示すものでもある。

まず本書の構成を簡単に示しておこう。本書は、中国哲学の研究者――そのほとんどは儒学者であり、二名の道学者が含まれている――による、サンデルの思想と中国哲学との比較思想の諸論考と、サンデルによるその応答によって構成されている。執筆者たちは必ずしも中国本土で中国哲学を研究している者に限らない。合衆国やシンガポールの中国哲学研究者も含まれている。この意味で、本書の議論は必ずしも中国におけるサンデル・ブームの正確な反映ではない。あくまで主眼は比較あるいは対話にあり、サンデルの思想・言説がこのブームの中でどう受容されたかは、エヴァン・オスノスによる「はしがき」を除けばあまり言及されることはない。

とはいえ、オスノスによって報告される中国におけるサンデル・ブームは、非常に興味を惹かれる特徴を有している。中国におけるサンデル・ブームは、有志によるインターネットでの中国語翻訳をきっかけとしたものであり、したがって彼が予期する間もなく「突然に」熱狂的なブームが巻き起こった、のだという。さらにオスノスは、その関心が中国の若者による道徳哲学への濃厚な関心を反映していることを報告している。体制批判が禁じられている中国では、政治体制を直接的に批判するような類の政治的言説はそもそも存在が難しい。それに対してサンデルが提供したのは、「不平等、腐敗、公正について、政治的にならずに語るための基盤」だったのだ(15頁)。

このことは、本書における主たる論調を陰に陽に規定している。本書の論者の多くは、政治的なものと道徳的なものが分離不可能であるという立場を採用している。しかもそれは、サンデルによるリベラリズム批判の根底にある「正に対する善の優先性」よりも強い意味でそうだ、と主張するのである。たとえば本書の中で、有徳な者が政治的指導者となるべき理由として、アリストテレス主義的な功績によるものではなく、ある論者は教育的な理由(指導者が市民の道徳的模範になること)を挙げ、別の論者は法における解釈の不可避性(法の解釈が立法者の意図を参照することによってなされるのであれば、立法者が有徳な者であることは法の悪用を防止する)を挙げている。いずれの立場にせよ、政治的な指導者は市民としてだけではなく、個人として、あるいは人間として有徳でなければならないという、かなり強い主張を儒教の伝統の中から引き出している。もちろんこれは、学術的な解釈であって、それが現実における中国政治を直接的に参照することはない。しかしこの議論は、当然のことながら読者たちに次のような反省を促すことになるだろう。「私たちの政治指導者(たち)は、はたして有徳な存在であるのだろうか?」

本書のうちにみられる論点はそれだけではない。たとえば儒教的役割倫理とそれに基づく女性の位置づけ(評者はヴァナキュラーな価値を強調するイヴァン・イリイチのジェンダー論を強く想起させられた)や、多様性とそれに基づく共同体の重要な価値としての「調和」などの議論は、それ自体としては直接的に現実政治を批判するものではないものの、哲学的な諸論点を通じて政治的なものを再考するよう私たちに強く働きかけるものである。これらの論点に関して、儒学者、道学者、サンデル、あるいはその他の思想家たちの、誰の主張に同意するのかという点は実は些細な問題である。抽象的な哲学議論を通して、現実政治を反省せざるをえなくなるという、この思想の力を感得せしめる点において、本書は重要な意義を有しているのだ。
この記事の中でご紹介した本
サンデル教授、中国哲学に出会う/早川書房
サンデル教授、中国哲学に出会う
著 者:マイケル サンデル、ポール ダンブロージョ
翻訳者:鬼澤 忍
出版社:早川書房
以下のオンライン書店でご購入できます
「サンデル教授、中国哲学に出会う」出版社のホームページはこちら
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