繋がりの詩学 近代アメリカの知的独立と〈知のコミュニティ〉の形成 書評|倉橋 洋子(彩流社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年4月13日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

アメリカの知的独立の過程
大陸間の「知のコミュニティ」同士の相互関係

繋がりの詩学 近代アメリカの知的独立と〈知のコミュニティ〉の形成
著 者:倉橋 洋子、髙尾 直知、竹野 富美子、城戸 光世
出版社:彩流社
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 「実験国家」と称されるアメリカ合衆国は、北アメリカ大陸に植民してきたヨーロッパ人とその子孫たちによって、ヨーロッパ諸国とは違った新しい理想国家となるべく、一七七六年にイギリスからの独立を宣言して誕生した。しかし知的独立となるとどうか。それは国家としての政治的な独立ほど明確ではなく、それゆえに知的独立の過程を追うことはアメリカの精神史を詳らかにするという意味でなかなかに興味深い作業だ。その作業に取り組んだのがアメリカ文学の研究者一六人による論考を収録した本書である。

知的独立への試みは国家としての独立以前の植民地時代にさかのぼる。そのため、本書はアメリカの植民地時代から独立後の一八世紀末までを扱う「第I部 共和国と知のコミュニティ」から始まり、アメリカ独自の思想・文学が花開く一九世紀半ばまでのアメリカン・ルネサンス期を扱った「第Ⅱ部 ニューイングランド的コミュニティ」「第Ⅲ部 女性と知のコミュニティ」「第Ⅳ部 メルヴィル的コミュニティ」を経て、南北戦争後一九世紀末までを扱う「第Ⅴ部 拡がりゆくコミュニティ」で終わる。

本書で繙かれるアメリカ精神史は、時に緩く、時に緊密に、あるいは時に想像上で形成された複数の「知のコミュニティ」の対立あるいは相互の関連から論じられる。そしてここに収録されたほとんどの論文は、アメリカの(有形無形の)「知のコミュニティ」の活動に、大西洋の対岸にあるヨーロッパが強く影響していたことを明らかにする。

数例を挙げると、植民地時代の一八世紀半ばマンハッタンで相次いだ放火事件からは、自白供述書を複数のコミュニティが解釈する中で、宗主国イギリスの敵国スペインの陰謀説まで導き出される。また、アメリカン・ルネサンス期において、エマソンにはイギリスのロマン派詩人コールリッジを経由してドイツ哲学、特にカント、ホーソーンとメルヴィルにはシェイクスピア、マーガレット・フラーには『ゲーテとの対話』のドイツ人著者ヨーハン・ペーター・エッカーマン、そしてギリシア神話の神々といった具合に、それぞれの思想家・作家への影響が指摘される。ヨーロッパの影響は南北戦争後までも続く。一九世紀末イギリス社会主義者たちによるソロー、ホイットマン、メルヴィルの受容を巡っては、英米という環大西洋批評空間で対立さえ起こっていたのだという。

植民地時代以降それぞれの時代に、国内の「知のコミュニティ」間の交渉によりアメリカの知的独立は模索されてきたのだが、「知のコミュニティ」はヨーロッパにも存在した。イギリスから独立を果たしたというアメリカの起源を考えれば、ヨーロッパとの関係は当然と言えば当然なのだが、本書に収録された文章を読むと、環大西洋「知のコミュニティ」同士の相互関係に改めて気づかされる。つまり、アメリカ国内のコミュニティのみならず、大西洋の両岸同士の交渉が、アメリカの知の形成に寄与してきたということだ。

時代は下って二一世紀の現在、アメリカ政府が推し進めようとしている国境の壁建設や、自国の利益を優先させる外交や通商上の単独主義的行動は、国家というコミュニティ同士の交渉とは逆の「分断」と映る。歴史上の知的独立や「知のコミュニティ」という文脈で考えるとき、現代アメリカの姿はもしかすると知の、ひいては国家の衰退を意味しているのではないか。本書を読むとそんな疑念さえわき起こってくる。
この記事の中でご紹介した本
繋がりの詩学  近代アメリカの知的独立と〈知のコミュニティ〉の形成/彩流社
繋がりの詩学 近代アメリカの知的独立と〈知のコミュニティ〉の形成
著 者:倉橋 洋子、髙尾 直知、竹野 富美子、城戸 光世
出版社:彩流社
以下のオンライン書店でご購入できます
「繋がりの詩学 近代アメリカの知的独立と〈知のコミュニティ〉の形成」出版社のホームページはこちら
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