源氏物語越境論 唐物表象と物語享受の諸相 書評|河添 房江(岩波書店)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年4月13日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

源氏物語越境論 唐物表象と物語享受の諸相 書評
「空間」と「時間」を越える
「二つの越境」という視点から「源氏物語」に迫る

源氏物語越境論 唐物表象と物語享受の諸相
著 者:河添 房江
出版社:岩波書店
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 源氏千年紀から十年の節目の年にふさわしく、千年の享受の歴史を持つ『源氏物語』という巨大な作品に、現代の斬新な視点からアプローチする、卓越した研究書が刊行された。サブタイトルの「唐物表象と物語享受の諸相」から明らかなように、著者の近年の主たる研究対象である、『源氏物語』を東アジア文化の中で捉える視点と、『源氏物語』の享受の多様性と層の厚さの分析である。それらは、本書の二部構成、「第Ⅰ部 東アジア世界のなかの平安物語」と「第Ⅱ部 『源氏物語』のメディア変奏」とにそれぞれ対応している。といっても、この二つはそれぞれ孤立して存在するのではなく、「異文化接触とメディア変奏」という「二つの越境」という視点を構築することによって『源氏物語』という作品の本質に迫ろうという問題意識でつながれており、それが本書のメインタイトル「源氏物語越境論」という名称として固定化されている。以下、具体的に見ていく。

「第Ⅰ部 東アジア世界のなかの平安物語」は、「第一編 威信財としての唐物」「第二編 『源氏物語』の和漢意識」「第三編 異国憧憬の変容」の三部構成からなる。個々の論文の卓越性は当然のこととしても、この三編の構造美は、一つの唐物の美術品を見せられているようである。第一編では『竹取物語』『うつほ物語』『枕草子』等々の平安時代の様々な文学作品から、異国意識や唐物受容の実態を例示する。巨視的な視点からこの時代の異文化意識というものを明らかにする。こうした幅広い視点の確保があればこそ、本書の中核でもある第二編の「『源氏物語』の和漢意識」の諸論稿が圧倒的な説得力を持ってくる。第三編では、平安後期物語や『栄花物語』『平家物語』など後代への視点を措定する。第一編と第二編が空間的広がりであれば、第二編と第三編は時間的広がりの保証である。さて、中核の第二編について述べる。ここでは特に「第三章 梅枝巻の天皇―嵯峨朝・仁明朝と対外関係―」「第四章 和漢並立から和漢融和へ―文化的指導者としての光源氏―」の二論考が注目される。前者では、嵯峨天皇という巨大な文化人とその時代に正面から切り込むさまも読み応えがあるが、日本史や日本漢文学の分野で近時注目されている仁明朝、特に承和という時代を、深く掘り下げて位置づけた部分が特にすばらしい。今後参観され続ける論文となろう。後者は、本編全体及び第一編の成果を受け、さらには第三編への展開も内包させた論。一見読みやすい論文であるが、繰り返し味わうに足る、奥の深い文章である。本書を繙く読者が最初に読むべき明快な見通しを持った論文であると同時に、最後に読み返してみると、平易に見えた行文の背後にある深い洞察に気づかされるものである。それにしても、文化といい、政治といい、光源氏という人物が、並立や対立をいかに止揚したか、改めて考えさせられる問題である。

第Ⅱ部「『源氏物語』のメディア変奏」のうち、第一編「源氏絵の図像学」、第二編「源氏能への転位」は最新の絵巻絵画研究・能楽研究と切り結び、隣接分野に越境していく過程は著者の独擅場である。紙幅の関係から第三編「近現代における受容と創造」のみ取り上げる。『源氏物語』の英訳におけるアーサー・ウェイリーからサイデンステッカーへ、『源氏物語』の近代日本語訳における与謝野晶子から谷崎潤一郎へ、与謝野晶子における『新訳源氏物語』から『新新訳源氏物語』へ、論じられているそれぞれは、一見別個の現象のようであるが、これは不断に越境や変奏を続ける『源氏物語』という作品そのものの秘密を見事に解き明かしているのである。そうした書物であればこそ、専門の国文学研究書という枠を越境する可能性をも秘めている。『唐物の文化史』(岩波新書)などで著者の論旨に魅せられた一般読者にも、専門書という概念を越境して是非繙いて頂きたいものである。
この記事の中でご紹介した本
源氏物語越境論  唐物表象と物語享受の諸相/岩波書店
源氏物語越境論 唐物表象と物語享受の諸相
著 者:河添 房江
出版社:岩波書店
以下のオンライン書店でご購入できます
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