カルデロンの劇芸術 聖と俗の諸相 書評|佐竹 謙一(国書刊行会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年4月13日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

カルデロンの劇芸術 聖と俗の諸相 書評
聖俗織りなす豊かな劇世界
スペイン・バロック演劇の第一人者カルデロン

カルデロンの劇芸術 聖と俗の諸相
著 者:佐竹 謙一
出版社:国書刊行会
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本書はスペイン・バロック演劇の第一人者カルデロン・デ・ラ・バルカの劇世界を様々な角度から分析した力作だ。まず驚くのは膨大な先行研究に基づく佐竹氏の学殖である。四〇〇年以上も前の作家を研究するとなると、作品の執筆年度や上演の有無、複数の版のすべてが本人の手によるものかなど、多くの謎が立ちはだかる。佐竹氏は数多くの文献に当たり、根拠となる出典を明らかにしているため、その議論は推測の域を出ないにしても読者に不信感を与えない。作者の知識はカルデロン研究に限定されない。第一章ではカルデロンに先駆けて活躍したロペ・デ・ベーガやセルバンテスを筆頭に様々な作家を引合いにだし、当時の芝居事情にも触れながら、黄金世紀のスペイン演劇を概観している。また、作品分析の際には、物語の時代背景となる史実、たとえば『不屈の王子』ではレコンキスタ、『イングランド国教会分裂』ではヘンリー八世、あるいは『コパカバーナの黎明』ではフランシスコ・ピサーロのペルー征服の時代を詳細に紹介している。そのうえで、カルデロンが「複雑な歴史の流れを劇空間に持ち込むことを避け」、「わかりやすく、かつスピーディに筋展開を構想した」ことを浮き彫りにする。

作品に関しては、「名誉劇」と「〈マントと剣〉の喜劇」の章で副題の「俗」の部分を、「宗教劇」と「聖体劇」の章では「聖」の部分を分析している。ただ、「名誉劇」や「喜劇」においてもカトリック信仰が、「聖」なる作品においても世俗的描写が盛り込まれているため、境界が漠然としていることを論証している。

当時のコメディアのテーマとして好まれたのが名誉であるが、セルバンテスの名誉感が「他人の評価に関係なくその価値を有する」美徳に裏付けられるものであるのに対して、カルデロンが扱ったのは「世間体としての名誉」であり、「不名誉・復讐・名誉回復」という流れであったという指摘は興味深い。

本書を読んで気づいたのは、カルデロンの女性の描き方が示唆に富んでいるということだ。従順な姉と自由奔放な妹が登場したり、女性が恋の駆け引きの主導権を握ったり、自由を謳歌する女性が登場したり、女性が男装したりする。「監禁生活にも似た閉鎖的な日常生活に反発するかのように、自由を享受しようと町を闊歩する女性たち」が現れたフェリペ四世の時代を反映しているという。

最も読み応えがあるのは「名誉劇」と「〈マントと剣〉の喜劇」の筋展開の錯綜・混乱を論じた部分である。カルデロンの得意技と作者が呼ぶ「夜の暗闇や秘密の戸棚を利用して姿を消す」という奇術のような絡繰りや、「隠れることによって真実を引き出そうという魂胆」、あるいは「秘密の手紙、相手を欺いたり一芝居打ったりという劇的モチーフ」が話を錯綜させ、観客を楽しませるという。これはまさにロペが『当世コメディア新作法』で述べた「木戸銭を払う観客を満足させること」をカルデロンが忠実に守っていたことの証左である。

カルデロンと言えば『人生は夢』だが、本書は『不名誉の画家』や『淑女「ドゥエンデ」』、『時には禍も幸いの端となる』などの多様な作品を分析対象とし、さらに豊かなカルデロンの劇世界を見せてくれる。ただ、作品によっては筋を理解するのがやや困難だ。人間関係や出来事が錯綜し、話が複雑であるため、粗筋をわかりやすく書くのは至難の技であろう。邦訳が出ているものに関しては翻訳作品を読んでから本書を開くことをお勧めする。
この記事の中でご紹介した本
カルデロンの劇芸術  聖と俗の諸相/国書刊行会
カルデロンの劇芸術 聖と俗の諸相
著 者:佐竹 謙一
出版社:国書刊行会
以下のオンライン書店でご購入できます
「カルデロンの劇芸術 聖と俗の諸相」出版社のホームページはこちら
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