サビールの祈り パレスチナ解放の神学 書評|ナイム・スティファン・アティーク(教文館 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年4月13日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

サビールの祈り パレスチナ解放の神学 書評
パレスチナの不正義からの解放神学
排除と差別が「信仰」よって正当化されるとき、何を信仰し闘うのか

サビールの祈り パレスチナ解放の神学
著 者:ナイム・スティファン・アティーク
翻訳者:岩城 聰
出版社:教文館
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 「解放の神学」は、社会的不平等のもと貧困に喘ぐ者たちを救済するための「神学」として、一九六〇年代から七〇年代にかけて中南米のカトリック教会で興隆した。被抑圧者の解放の実践的神学という「解放の神学」の理念は世界に広がり、北米の黒人の解放神学など、地域固有の文脈のなかで独自の運動を展開してゆく。パレスチナもまた、然りだ。

一九世紀末のヨーロッパで、パレスチナにユダヤ人国家を建設するという政治的プロジェクト(シオニズム)が興り、一九四八年、イスラエルが建国される。このとき、その地にもともと暮らしていたムスリムとクリスチャンのパレスチナ人、七五万人以上が民族浄化され、難民となった。さらに、一九六七年には歴史的パレスチナの全土がイスラエル占領下となり、暴虐と圧政は今に続く。この不正義からの人間解放を実践的に求める神学として、一九八七年、本書の著者、ナイム・アティーク司祭らパレスチナ人キリスト者たちのあいだから、パレスチナにおける固有の解放神学が生まれ、アラビア語で「道」ないし「公共の泉」を意味する「サビール」と名づけられた。そのエッセンスを紹介したのが本書である。

パレスチナにおける不正義は、民族浄化や占領を正当化するシオニズムのイデオロギーに根差しているが、貧困や黒人差別が社会的不正義として普遍的に認識されるのに対し、「ユダヤ国家」の建設やそれに伴う民族浄化は、ホロコーストや聖書解釈によって世界的に正当化されたり、看過されている。被抑圧者であるパレスチナ人キリスト者が信仰する聖書それ自体が、自らに対する排除と差別を正当化する「神のことば」として世界的に読まれ、理解されているのだ(たとえば旧約聖書の民数記三三章、申命記七章、あるいはサムエル記上一五章における先住民や異民族の「聖絶」など)。不正義がキリスト者自身の「信仰」によって正当化されているとき、キリスト者として何を信仰し、いかに闘うのか? それがパレスチナにおける解放の神学の肝となる。

著者は、イエスの説いた思想に照らして聖書を読むことを提唱し、そして、問う。恨み、報復を望み、異民族を根絶やしにすることを人に要求する神とは、果たして、イエスを通して私たちが知る、私たちが信仰すべき神なのか、と。著者の答えは「否」だ。それは、部族の神であり、部族主義時代の人間が考えた神であると。そして、旧約聖書でもエゼキエル書やヨナ書において、神は、憐れむ神、赦す神として提示され、部族主義的神概念がすでに超克されていること、さらにイエス自身も、旧約から引用する際、愛の神に合致しない部分は大胆に省略したり、敢えて別の言葉を用いていると指摘する。

イエスに倣って、著者は言う、私たちは「敵」をも愛さねばならないと。なぜなら、占領者、加害者としてシオニズムという不正義の軛に繋がれている者たちもまた被抑圧者であり、パレスチナにおける人間解放とは、彼らの解放をも意味し、彼らが解放された暁には、彼らもまた、その地でともに暮らす家族となるのだから。本書は、キリスト者としていかに聖書を読むかをキリスト者自身に向けて問いかけるものだが、被抑圧者の解放が和解に至るために正義のみならず「愛」が必要であると説く、キリスト者である著者の思想は、クリスチャンならずとも、パレスチナ問題(のみならず、世界で生起する不正義の問題)に取り組む者にとって、普遍的な思想的糧となるものだ。
この記事の中でご紹介した本
サビールの祈り パレスチナ解放の神学/教文館
サビールの祈り パレスチナ解放の神学
著 者:ナイム・スティファン・アティーク
翻訳者:岩城 聰
出版社:教文館
以下のオンライン書店でご購入できます
「サビールの祈り パレスチナ解放の神学」出版社のホームページはこちら
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