すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール 書評|ティファニー・ハディッシュ(CCCメディアハウス)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年4月13日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

身も蓋もない明け透けさというパワー
人生のあらゆる困難にぶち当たりまくって笑う

すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール
著 者:ティファニー・ハディッシュ
翻訳者:大島 さや
出版社:CCCメディアハウス
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 先日、「反応しない」という仏教的心理テクニックの話を聞き(なるほど)と何度もうなずいたのだが、この本の著者ティファニーは、自他共に対して終始反応しまくりで、仏教的心理テクニックは一生使えそうにない。

コメディアンを目指しているティファニーは、よくある現代の問題だらけの環境に埋もれるわけにはいかず、それぞれの問題と正面衝突しつつ、元気過ぎるため傷だらけのまま前進しかできない。

ハンディキャップのある同僚の男性ロスコーとの関係が本物かもしれないと思うが、自分と周囲のパワーがそのナイーブなセンスも破壊してしまう。「世界でいちばんの男だった」そう感じる性交を何度も重ねたというのに。

ロスコー:僕とは付き合えないって、そう言ってるの?
ティファニー:そうだよロスコー。そう言ってるんだよ。
ロスコー:なんだって?本気なの?僕と、いいいいっしょにいたくないって、そういいい、言ってる?
ティファニー:そうじゃないよ。ロスコーとはお友達でいたいよ。でもロスコーの彼女にはなれない。真剣なお付き合いはできない。わたしはできない。
ロスコー:ええええ、じゃあ僕の彼女にはなれないって、そう言ってるの?
ティファニー:そうだよロスコー。彼女にはなれない。
ロスコーはわたしの顔をしっかりと見つめた。その顔を見てわたしは心臓が張り裂けそうだった。その表情からは傷ついた心と生々しいほどの痛みが伝わってきた。そんな顔を見たのは、人生で初めてのことだった。
ロスコー:わかったよ。

わたしは泣きそうになっていた。あと少しのところで、彼の手をつかんで、いま言ったすべてを取り消したいと言いそうになっていた。


ここで終われば悲しくも美しいラブストーリーだ。
しかし、ロスコーも激流の中にいるゆえ、こんなしんみりでは終わらない(元気すぎて終われない)。

彼が立ち上がった。
ロスコー:じゃあもういい!どっか行けよ!そんなんだから、お前はゴミ箱なんだよ!
ティファニー:何?
ロスコー:お前のアソコなんて、ゴミ箱だ!

ロスコーはそう言って、去って行った。衝撃的だった。何か叫び返してやりたい気持ちだったけど、周りにはたくさんの人がいた。それに、なんて叫び返せばいいわけ?「わたしのアソコはゴミ箱じゃない!」とか?


元気過ぎると、人は戦ってしまう。しっとりとした恋愛に必要な「付け入る隙」などみじんもなく、ただただ、己のみの生命を維持して前に前に突き進むしかない。

本書は一言で言うと「アメリカで悲惨な環境から這い上がった黒人女性コメディアンの現在進行形の人生録」なのだが、コメディアンとして、また映画人としてのプライドや夢を糧にして、ティファニーの心は完全に潰れる暇がない。

YouTubeで彼女のスタンドアップコメディーを視聴したが、明け透け過ぎてわたしは笑えなかった。しかしこれくらいやらなければ生き残れないのかという意味で感動した。

本書には結局ウェットさが残らない。身も蓋もない日々を生き抜くことで生じた彼女の心の抗体が、じめじめを寄せ付けず、ドライな笑いを生み出し(吐き出し)続けるのだ。

冒頭で触れた仏教徒とティファニー、ベクトルの矢印は逆だが、エネルギーは同じなのかもしれない。

人生のあらゆる困難に対して、離れて悟るか、ぶち当たりまくって笑うか。

どちらも半端ない、ガチ態度だと思う。
この記事の中でご紹介した本
すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール/CCCメディアハウス
すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール
著 者:ティファニー・ハディッシュ
翻訳者:大島 さや
出版社:CCCメディアハウス
以下のオンライン書店でご購入できます
「すべての涙を笑いに変える黒いユニコーン伝説 世界をごきげんにする女のメモワール」出版社のホームページはこちら
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