自由からの逃走 書評|エーリッヒ・フロム(東京創元社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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【書評キャンパス】大学生がススメる本
更新日:2019年4月13日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

エーリッヒ・フロム著『自由からの逃走』

自由からの逃走
著 者:エーリッヒ・フロム
翻訳者:日高 六郎
出版社:東京創元社
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自由とは何か。歴史的には、中世の封建制における土地や職業の束縛、近代の絶対王政などから解放されるため、近代以降特に人類が絶えず追い求めてきたものであり、現代においてもそれは絶対的な価値を持つものとして考えられる傾向にある。

しかし本書は、近代人にとって自由が二重の意味を持っているということを主張する。一つは、近代において個人が旧来の束縛から解放され、独立を求めるという過程に代表されるような「……への自由」という積極的な意味の自由であり、私たちが認識する「自由」の概念はこれに近いだろう。しかしもう一つの意味はこれに反する。近代以降個人は自由を獲得するが、実は旧来の束縛の下にある人生は安定感と方向づけが保障されたものであり、その紐帯が失われることによって孤独と無力がつきまとうようになった。そこから逃れるために大衆は新しい束縛へ逃避し、それに服従するようになった。これを「……からの自由」と筆者は述べており、本書が主題として掲げ、絶対的価値を持つと思われがちな「自由」にはこのような危険性が伴うということを主張している。

更に筆者は、彼が生きていた時代の、ナチスに迎合するドイツ人をその実例として挙げる。当時のドイツ人は、彼らの安定感と方向づけを保障していた君主政治の崩壊や経済状況の悪化によって、半ば絶望的な自由放任状態にあった。そのような中で彼らは新しい服従先としてナチスを求め、更にユダヤ人などを標的化することで自信を補填していた。筆者は、前者をマゾヒズム的衝動、後者をサディズム的衝動と述べ、批判している。

さて、本書の発刊は1941年であり、時間も空間も異なる現代日本に対する、直接的な政治的・社会的なイデオロギー性はないと言える。しかし昨今の日本における社会問題は本書の指摘に重なる点が非常に多く、その両側面からして現代の日本人が自らの思想を問わず読む価値を持つ本であると評者は考える。

例えば先ほどのナチズムと比較して、戦後日本は自由主義経済を推進し、富の配分の自由化を拡大した。しかし長年に亘る不況により、セーフティネットが縮小していく中で雇用環境は不安定になり、格差社会が加速化し、日本人は自由主義の中で疲弊していく。そのような社会の中で自信を保つため、ナチズムにおけるサディズム的衝動たるユダヤ人や同性愛者、ロマ人たちに対する差別のように、現代の日本では在日外国人、生活保護受給者、性的少数者などの社会的マイノリティに対する差別や、嫌韓・嫌中の風潮が見受けられる。

まさに、現代は本書が著された時代と同じように、自由に耐えられなくなった人々が政府という巨大な組織にマゾヒズム的に従属し、サディズム的に他を排するという問題性を抱えている時代であり、この点において本書の内容は時間と空間を超えた普遍性を持っている。

何か問題に直面したとき、人は過去の経験からその答えを導き出そうとするだろう。ではそれが国家規模や人類規模となったとき、何に答えを求めるか。それは歴史である。近代以降展開され続けた自由との闘争の歴史と改めて向き合い、現代の問題を考えていく。これはそれを手助けしてくれる本だと思う。
この記事の中でご紹介した本
自由からの逃走/東京創元社
自由からの逃走
著 者:エーリッヒ・フロム
翻訳者:日高 六郎
出版社:東京創元社
以下のオンライン書店でご購入できます
「自由からの逃走」出版社のホームページはこちら
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