対談=立岩真也×天田城介 病・障害から社会を描く 『不如意の身体』『病者障害者の戦後』(青土社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年4月12日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

対談=立岩真也×天田城介
病・障害から社会を描く
『不如意の身体』『病者障害者の戦後』(青土社)刊行を機に

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第2回
当たり前に知っているべきことを、知っているべきだ

立岩 真也氏
天田 
 立岩さんには、当たり前に知っているべきことを知っているべきだという、社会学的態度というか、社会学者としての矜持がありますよね。社会学的な用語で化粧する前に、単純に知っておくべきことがあると。そのことがこの二冊の本を書かせたと思うんです。
立岩 
 私は自分は社会学者であると思っているし、そのことに誇りをもっていると言ったっていい。しかし、そんなにたいしたことない「理論枠組」をいちいち示せとか、それがそんなに大切なことかなと思うところはあります。理論より事実が、とか言いたいのではなく、たいしたことない理論をわざわざもってきてもたいしておもしろくはならないだろうと。
天田 
 とはいえ、単に知識を多くもてばいいということではなくて、特に我々の生存や生活に関わる領野において、当事者や家族、福祉や医療を構成する政治について、知っているべきことを知っているべきだというのが、立岩さんには強くあると思うんです。

しかもAにいる人はAのことしか知らない。Bにいる人はBのことしか知らない、というように断絶しているのはよろしくないと。

この本は、化粧した生政治や生権力の話とは違う。断絶したA、B、Cが併存、対置されてしまう不思議な現実の上に、この社会ができあがっていることへの疑問をぶつけた本ですね。ただし考えの基本線は示しながらも、なにゆえ社会がそうなっているのか、立岩さんが最終的にそれをどう考えたのかは、明確には書かれていない。その点は伺ってみたいことでした。
立岩 
 一つ言えるのは、社会というもののかたちは一様ではなく、デコボコだということです。

社会学者として、自分の見立てや言説によって社会のかたちを描きたいという思いが、僕にもないことはないんです。でもそれ以上に、なぜこの人たちのことは知られていないんだろう。あの人は、この人たちのことを知らないんだろう。それはよろしくない、という気持ちがある。

例えば難病という分野の医療者として何十年も従事している人が、障害者の社会運動組織や、政策を作ろうとする動きについて知らない。その結果として、国立療養所以外の別の場所でも暮らせるはずの人たちが、外の世界と遮断されてしまい、そこに留まる選択しかできない。あるいはわずかにそこを出た人が、個人的な苦闘や困難に見舞われることになる。それは端的に、病・障害者の暮らしにとってマイナスです。長い間の断絶のために、知られるべきことが知られず、損をする人がいるのは嫌だな、よくないな、これからでも変えた方がいいなと。青の本で、筋ジスの人たちについて書いたのは、そういう素朴な気持ちからです。だから、かたちとして社会を描こうというよりは、実践の気持ちが大きかった気がします。

二〇〇四年に『ALS』という本を書いたときに、看護師たちが医療に関すること以外、何も知らないことに気づいたんです。何で知らないんだろう、と思うわけですよ。

それは先ほど天田さんが言った、何で社会がそうなっているのか、ということに関わってくるのですが、まずはごく単純に形成された断絶について言えるかもしれない。自分たちは医療者であり、目の前にいる人たちは病人である、その関係だけで成立する世界があった。一方、医療とは別の側面で、運動を通じて、彼らの生活を支援し形成してきた人たちがいた。その目に見える縄張り争いは、九〇年代から二〇〇〇年代にかけて起こるわけですが、それはまことに下世話な話で、医療ケアを誰が担うかという、業界内での縄の引っ張り合いになっていきます。つまり業界が自分たちの立場を守ろうとしたり、領分を拡張しようとする中で、断絶が形而下的に形成されていったのだろうと。そういうことをしていたらこの社会はだめだよね。
天田 
 それがいまに繫がっているわけですからね。そういう意味では、これは確かに「実践」的な本であり、社会学者なら最低限これぐらいのことを知っていなければだめでしょう、社会学者以外の人も知っていてよ、というメッセージになっています。

でも立岩さんが、社会のフォルムを描くことを意識しなかったとも思っていないんです。ただ社会はデコボコしていて明瞭な輪郭で描くことはできない。その表明もまた、この本の面白さだと思っています。

生政治や生権力といった、どこの社会にも普遍的に通じるような社会の形式を描こうとしたのではなく、我々が生きる、この陳腐で平凡にできあがった社会のフォルムを、描いたということかなと。
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この記事の中でご紹介した本
不如意の身体 -病障害とある社会-/青土社
不如意の身体 -病障害とある社会-
著 者:立岩 真也
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
病者障害者の戦後 -生政治史点描-/青土社
病者障害者の戦後 -生政治史点描-
著 者:立岩 真也
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
「病者障害者の戦後 -生政治史点描-」出版社のホームページはこちら
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