対談=立岩真也×天田城介 病・障害から社会を描く 『不如意の身体』『病者障害者の戦後』(青土社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年4月12日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

対談=立岩真也×天田城介
病・障害から社会を描く
『不如意の身体』『病者障害者の戦後』(青土社)刊行を機に

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第5回
私たちは現実をほとんどきちんと理解していない


天田 
 限られた資料からしか語れないことは往々にしてあるので、語らないという選択ではなく、我々はアクセスできるところでしか、話を聞いていない、という自覚と思考を持ち続けるということでしょうね。
そしてやはり知るべきこと。先ほどの島田療育園の「有能」な施設長の話などは、いまその業界にいる人たちも、知っておくべきことだろうと思いますね。つまりそんな積み重ねや実践の歴史さえも知られていないゆえに、私たちは現実をほとんどきちんと理解していない。
立岩 
 島田療育園と、創設者の小林提樹が讃らえ、びわこ学園と、糸賀一雄が讃えられる。島田とびわこは、いつでも障害者支援施設中興の祖、と賞讃される。でもそれだけでは何も伝わらない。例えば両者にはずいぶんの違いがあります。そう簡単に並べられるものでもない。そして、各々のよさがどういうものであったのか。さらに「よさ」ということには、すくなくとも今日的にはならないのですが、例えば小林提樹という人が、実際に何をしたのかということも、見ておかなくてはいけない。この人は五〇年代に精神障害の治療として、大脳の神経回路を切断するロボトミー手術に加担した形跡があるという。それから最近、京都新聞が、障害者施設の近江学園でも、不妊手術が行われ、創設者の糸賀一雄も承知していた可能性があると言った。だから悪い人間だったと言いたいわけではなく、そういうことまで込みで、そこから社会の成り立ちを見ていかないといけないのではないかと。
天田 
 我々の色眼鏡を解除しないと、見えてこないところもありますしね。小林提樹にしても、ロボトミーについて、治る可能性があるなら、なぜその可能性にかけないのかと思っていたかもしれない。我々がいま相対すると思っているものも、当時は接続していた可能性があります。
立岩 
 ロボトミーや断種手術が、悪いことだと考えられるのは、後の話ですからね。

ただ主流だった治療法を止めるには、何か理由があったはずで、私たちはその経緯を知り、考えたいわけでしょう。でも、よもや小林提樹の本を読むことがあろうとは思わなかったですが(笑)、その経緯を知らせるものはいまのところ何も出てきません。

もう一つ言っておくと、今回の本は理詰めで調べていくことだけで成り立っているわけではないということです。一九七〇年代の終わりから八〇年代にかけて、対抗的な社会運動の滓のようなものを、僕が体験していて、だからこそ、存在を賞讃された施設や、尊敬を集める創設者たちといった定説と、実際に見えていた世界にズレを感じるところがあった。僕自身、ある特定の立場で活動し、ものを言ってきたところがあって、だから僕は僕で偏っているとは思います。でもそれは仕方がないというか。見えているものがあるのだから、この場所からきちんと書こうと。でもだからこそきちんと調べて、公平に慎重に言おう、という気持ちはありました。

難病や国立療養所に関わった、椿忠雄、白木博次、井形昭弘といった人たち、彼らはその世界の権威として、一部の人たちの尊敬を集めた。例えば椿は、スモンの原因がキノホルムだと明らかにしたし、新潟水俣病の原因解明によっても知られています。でも別の角度から言えば、水俣病患者認定を厳しくした人物でもある。

白木も、水俣病に関わり、化学物質の害を言い続けた立派な人だと言われているけれど、そういえば東大闘争に参加していた人たちにとって、白木は敵だったと。まったく知らないほどすっかり忘れていましたが、私より五歳年上の斉藤龍一郎さんが知らせてくれました。

実際に読むのは、白木の文章も椿の文章も、ほぼ初めてでした。白木が七〇年代に『世界』他に書いたものも読みました。ある意味で真っ当というか、正義感に貫かれているわけです。東大闘争で辞めることになったけど、真面目に物事に取り組んだ人だったことを疑う必要はない。でも、そうだけど、あの時代の彼らの見立てや処遇が、その後を規定することになり、それは僕の目から見たら、やはりおかしいよね、ということです。

置かれた立場によって、人は一つの側面からしか見ようとしないけど、化粧を剥いで努めて素朴に考えないと、凡庸な社会や政治というものが見えてこない。凡庸で素朴な事実が組み合っていった中で、亀裂が生まれ隠されるものがあり、美しく語られる物事の後ろに埋もれる事実があり、それらがいまを作っている、そういう話だと思うんです。
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この記事の中でご紹介した本
不如意の身体 -病障害とある社会-/青土社
不如意の身体 -病障害とある社会-
著 者:立岩 真也
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
病者障害者の戦後 -生政治史点描-/青土社
病者障害者の戦後 -生政治史点描-
著 者:立岩 真也
出版社:青土社
以下のオンライン書店でご購入できます
「病者障害者の戦後 -生政治史点描-」出版社のホームページはこちら
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