奥村晃作『鬱と空』(1983) もし豚をかくの如くに詰め込みて電車走らば非難起こるべし |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年4月16日 / 新聞掲載日:2019年4月12日(第3285号)

もし豚をかくの如くに詰め込みて電車走らば非難起こるべし
奥村晃作『鬱と空』(1983)

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都市住民を苦しめる満員電車。しかし短歌でそれに異を唱えたみたところで、ストレートに言っても面白い歌にはならない。それならまだサラリーマン川柳の方が少しはましだろう。短歌にするならちょっとひねりを入れないと……というところの模範解答ともいえるのがこの一首だ。「もし豚をこんなふうにギュウギュウ詰めにして運んだなら動物愛護団体などから非難が起こるだろうに、なんで人間なら問題がないと思うのだ」と訴えている。大都市、とりわけ東京の住人たちは毎日毎日家畜以下の扱いを受けているのに、それを疑問に思わずむしろ自ら望んで駅へと突入してゆく。美しき思考停止の世界である。

少し遠回しに言っているところがエスプリが効いていて面白いが、そもそもなんで豚と比較するんだよという話でもある。この人は「もし自分が豚だったら」と想像しながら日々を生きているわけで、そちらの変人ぶりの方がいささか気にかかってしまう。なので「そうだ、その通りだ」と強く握った拳を振り上げるというよりは、「わはは、そりゃいいや」というジョーク程度で済ますのがちょうどいい、肩の力の抜けた歌である。時代がかった古文調であることも、むしろユーモラスな響きになっている。

満員電車に毎日乗っている歌人はたくさんいるはずだが、満員電車を詠んだ短歌は意外なほどに多くはない。この奥村晃作の短歌が、あまりにも決定版になってしまったのだろうか。(やまだ・わたる=歌人)
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