平成最後のアニメ論 書評|町口 哲生(ポプラ社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年4月20日 / 新聞掲載日:2019年4月19日(第3286号)

最先端アニメを教養で読み解く
古典や哲学から生命工学まで、博覧強記の語り口

平成最後のアニメ論
著 者:町口 哲生
出版社:ポプラ社
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「深夜アニメ」が大量に放送されるようになって、約20年が過ぎた。マニア向けコミックやライトノベルの映像化、クリエイターの作家性をアピールするオリジナル企画など、ビデオパッケージという高額商品を主目的に増加したジャンルである。題材や趣向の多彩さで海外にもファンが多く、日本のポップカルチャーの最先端を代表する分野でもある。文芸評論家・町口哲生はそんな深夜アニメの特質に着目し、近畿大学で講義を始めた。受講条件はなんと「深夜アニメを毎週20本以上視聴」。その講義をベースに新書化した「教養としての10年代アニメ」シリーズ三部作の完結編にあたる。

「教養」を前面に出しているだけあり、他の「アニメ論」とは様相が異なる。劇場映画含めて「10年代」という先端作品だけを題材にしている点、アニメに対して感想や印象を語らず、作品の扱う題材を古今東西の豊かな知識で照射し、作品の内実を再定義して読解する点。こうした行為を通じ、教養の総合的なネットワークのつながりを楽しむ本としている。次から次へと町口の蓄えた知識が怒濤のように提示された結果、対象となったアニメは現代社会のみならず、人類史上へさえ新しく位置づけられる。そのアクロバティックな語り口から見えてくる世界は実に新鮮で、知的好奇心の触発に圧倒された。

社会現象的なヒット映画『君の名は。』論では、平安から中世の古典を参照しながら日本の「夢見のシステム」に触れ、その上でゼロ年代に流行した「セカイ系」を脱構築した作品だとしている。新しい流行と片づけず、千年単位で続く「人の営み」の普遍性にも目を向けているのだ。誰も予想しない爆発的ヒットとなったテレビアニメ『けものフレンズ』論では、「アニメが描くサピエンス全史から人工生命まで」と近年のベストセラーを引用したサブタイトルを提示。作中に出てくるフレンズ(種々の動物属性をもつ美少女キャラたち)の「擬人化」に触れながら、「〝ヒト〟とはなにか」と究極のテーマを語る。

また『メイドインアビス』論ではキャンベルの神話論と先端カルチャーの「世界観主義」を語っているし、流行の「異世界転生もの」からは『幼女戦記』を取りあげ、「萌え」と世界大戦に通じる「総力戦」を「企業戦士」の秘めた能力につなげて論じる。その他「生命工学」「ヘーゲル哲学」など何かに偏らない総合性が、本書最大の魅力と言える。つまり町口の言う「教養」とは、脳に詰めこんだカビ臭い専門知識ではなく応用こそが力になるものなのだ。「いまを生きる者」に向けて作られている深夜アニメだからこそ、古来から最新科学まで幅広く目を向けることで、現代社会で何が起きているのかを見きわめ、生き抜けということだろう。

アニメ雑誌など流行とともに推移してしまうメディアでは評価までは捉えにくく、かと言って歴史的な観点の古典的な評論でも対象にされづらい「10年代深夜アニメ」。もし自分が「いまを生きる大学生」だったら、鑑賞するアニメを消耗品で済ませず、自分がホントは何に惹かれたのか、ネットの風評からの影響を切り離し、しっかりとしたパワーのある語り方を切望するはずだ。本書はそうした潜在的なニーズに応えた挑戦でもある。

学問が先に立つならば、アニメが主従の「従」と扱われるのかという危惧もあったが、あくまでアニメを「主」とし、「本書を読めばアニメ自体の奥深さに気づいてより楽しめる」とした姿勢に好感をもった。何よりも著者の膨大な読書量に支えられた教養の、幻惑感さえ漂うマシンガントーク的「語り口」そのものにエンターテインメント性がある。三部作の先にある、「令和のアニメ論」の進化形態を心待ちにしたくなる一冊だった。
この記事の中でご紹介した本
平成最後のアニメ論/ポプラ社
平成最後のアニメ論
著 者:町口 哲生
出版社:ポプラ社
以下のオンライン書店でご購入できます
「平成最後のアニメ論」出版社のホームページはこちら
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