イエティ 雪男伝説を歩き明かす 書評|ダニエル・C・テイラー( 青土社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年4月20日 / 新聞掲載日:2019年4月19日(第3286号)

雪男伝説、その足跡の先にあるもの
イエティが問いかける「人間の野生」

イエティ 雪男伝説を歩き明かす
著 者:ダニエル・C・テイラー
翻訳者:森 夏樹
出版社: 青土社
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本書のタイトルにある「イエティ(雪男)」とは、ヒマラヤに出没するとされる謎の未確認動物の呼び名である。イエティ情報が西洋社会へ報告され始めたのは一九世紀からだが、その名が全世界に知れ渡るようになったのは、一九五一年にエベレスト探検中のイギリス人登山家エリック・シプトンが、メンルン盆地の氷河上で撮影した足跡写真を発表したのがきっかけだ。それ以降、数多くのイエティ探検隊がヒマラヤを目指すようになる。

本書は、そんなイエティの謎に挑み続けた著者の、長年にわたる調査の記録である。と同時に、その過程で発見した「手つかずに残された野生」を保護するため、人間が野生を管理する場所としての国立公園を、ネパールと中国に設立するまでの物語でもある。

一九五六年、当時一一歳だった著者のダニエル・C・テイラーは、インドの自宅(ジャングルに囲まれたバンガロー)で、新聞に掲載されていたシプトン撮影の足跡写真を初めて目にし、心を奪われる。以来、少年時代を通じてイエティに関する現地の書物を手当たり次第に読みあさり、アメリカでの大学時代にはアメリカ発のイエティ情報を追い続けた。その後も何度となくヒマラヤを訪れる傍ら、英米の博物館や研究機関などへも足を運び、専門家と意見交換を重ねるなど、イエティ調査はまさに彼のライフワークとなった。時には彼の大学院時代の友人でもあった当時のネパール国王にも、助言と協力を求めている。

本書では、そのフィールドワークによって丹念に集められた「ある証拠」によって、最終的に雪上の足跡の正体が明らかにされる。著者がたどり着いた答えは、これまでに発表された説の中でも、最も現実的で説得力があるものだ。

現在では、数々の遺留品(毛皮や糞)のDNA分析や、言語面からの考察(イエティとヒグマを指す現地語の呼称の一致等)といった他の研究成果からも、イエティ現象の多くはヒグマによるものとの見方が優勢となっているが、本書の結論はそれをさらに一歩進める形で補強するものとなっている。

しかし足跡の主を解き明かした上で、著者はその先にある「第二のイエティ」の存在に言及し、注目する。「それは世界を闊歩しているマスコットとしてのイエティ」であり、「イエティは肉体を持った動物ではない。人々はイエティの中に、人間と野生とのつながりが具現化していたものを見ていた」と指摘する。

元々「イエティ」は、クーンブ地方に住むシェルパ族の言葉であったが、未確認動物として再定義されたイエティは、当時「未開」とされたヒマラヤの地で、西洋社会によって「発見」され、現地に逆輸入された概念といえる。かくしてイエティは「ワイルドマン(野生の人間)」のような画一的な容貌を与えられた。西洋人は人類進化上の失われた環である「ミッシング・リンク」への渇望から、また現地(特にネパール)の人々はそんな西洋からの要請に応えるため、「偶像」としてのイエティを必要としたのである。

著者は「今となっては広範囲に及んでいるイエティの言い伝えが、西洋人の関心によって、さらに拡大され誇張されている」と分析する。幼少期にヒマラヤの山々に親しみ、後に母国アメリカで学んだ著者は、現地からの視点と西側社会からの視点とを有しており、その筆致は常に冷静で客観的だ。

時間をかけて足跡の正体を追いつめていく過程はスリリングで、静かな興奮さえ覚えるが、本書は単なる謎解きの面白さだけでは終わらない。その足跡の先、人々の欲望の中に棲んでいる「偶像(イコン/アイドル)」としての「第二のイエティ」の存在を通じて、今後の人間と野生との関係についても考えさせられる、そんな一冊である。
この記事の中でご紹介した本
イエティ 雪男伝説を歩き明かす/ 青土社
イエティ 雪男伝説を歩き明かす
著 者:ダニエル・C・テイラー
翻訳者:森 夏樹
出版社: 青土社
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