冤罪 女たちのたたかい 書評|里見 繁(インパクト出版会)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年4月20日 / 新聞掲載日:2019年4月19日(第3286号)

「そして、冤罪は無くならない」
司法の壁、偏見――目の前の現実に立ち向かう女性たち

冤罪 女たちのたたかい
著 者:里見 繁
出版社:インパクト出版会
このエントリーをはてなブックマークに追加
かつて未解決事件の被害者家族を取材するなかで、さまざまな女性との出会いがあった。

留守中に自宅で娘を殺害された女性は母として自責の念に苛まれ、真犯人の足掛かりを探し続けている。一夜にして息子夫婦と孫たちを失った女性は、老いゆくなかで病に倒れた夫を支えつつ、懸命に事件解決を訴えてきた。我が子の命を奪われた真相究明に尽くし、被害者家族支援の会を立ち上げた人もいた。

そして四十数年前、北朝鮮に拉致された娘を救うべく、夫婦で拉致被害者を奪還する活動に身を捧げてきた横田早紀江さんとの出会いも鮮烈だった。絶望の淵にあっても、揺るぎない覚悟で娘との再会を祈る日々はなお終わらない。

こうして思いもよらぬ犯罪事件に巻き込まれた女性たちの姿に、唯々思う。そのひたむきな強さはいかに生まれ、何に支えられているのだろう……と。そんな問いを抱えながら手にしたのが本書である。

著者はテレビ報道の現場で二五年以上にわたり冤罪の取材を続けてきた。取調室という密室のなか、執拗な取り調べで無実の人々がいかに嘘の自白に追い込まれるのか。警察と検察という、とてつもない権力の暴走によって「冤罪」に巻き込まれていく過程が綿密な取材によって浮き彫りにされる。さらにその後の苦悩と長い闘いの道程を追うなかで、筆者は事件と関わる女性の存在に着目してきた。

本書には、二つの立場の女性が登場する。一方は、自身が事件の犯人とされ、冤罪を晴らすために闘った女性である。一九五三年に徳島市でラジオ商の夫を殺害され、検察官の脅しによって二人の店員が偽証を強いられた末、犯人に仕立てられた冨士茂子さん。もう一人は、一九九五年に大阪市東住吉区で発生した火災により小六の娘を亡くすが、警察は保険金目当ての放火と断定、内縁の夫とともに逮捕された青木惠子さんだ。この二人は後に冤罪であることが裁判で証明され、無罪判決を得ている。

また一方は、冤罪で逮捕された男性の無実を晴らすため、一緒に闘った女性である。一九六六年に静岡県で一家四人が殺害され、強盗殺人と放火の罪で逮捕された袴田巌さんの姉の秀子さん。その翌六七年、茨城県で発生した強盗殺人事件で犯人とされた桜井昌司さんの妻、恵子さんの二人を取材していた。

いずれも事件発生から再審開始まで数十年の歳月が費やされ、苛酷な闘いが続く。自身の冤罪に立ち向かった女性たちは、「夫殺し」「娘を殺した母」と蔑まされ、根拠のない噂や偏見に満ちた言葉の矢も降り注ぐ。司法の壁のみならず、男性社会の中にある女性への偏見とも闘ってきたことを、著者は指摘する。

かたや冤罪に巻き込まれる男性を支えるのはたいてい女性であり、母や妻、姉妹など、無実を信じて支える献身的な存在があった。もしその人がいなければ、長い雪冤までの日々を闘い抜くことも難しかったのではないかと思わせるような女性がいつも男性の傍にいるという。それゆえ今、そうした女性に光が当てられたことの意義は大きい。著者は憂うる。「そして、冤罪は無くならない」と。

ちょうど本書を読み終えたころ、まさに再審無罪のニュースが報じられた。一九八五年に熊本県で起きた「松橋事件」の再審公判で、服役した宮田浩喜さんの無罪が確定。宮田さんは殺害を自白したとして逮捕されたが、判決では「被告が犯人であることを示す証拠はない」とされる。入所する介護施設で花束を贈られた宮田さんはすでに八十五歳。その姿が痛ましい。殺人罪で再審無罪が言い渡されたのは、前述した大阪・東住吉事件の青木惠子さん以来という。

冤罪のみならず、多様な犯罪や社会問題の渦中で声をあげる人たちも増えつつある。女性はいまだ弱き者と見られ、根強い偏見で誇張されがちだが、真摯な思いで目の前の現実に立ち向かう強さを秘めている。その声がより救い上げられることを願ってやまない。
この記事の中でご紹介した本
冤罪 女たちのたたかい/インパクト出版会
冤罪 女たちのたたかい
著 者:里見 繁
出版社:インパクト出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「冤罪 女たちのたたかい」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
歌代 幸子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 書評のその他の記事
読書人紙面掲載 書評をもっと見る >
社会・政治 > 事件・犯罪関連記事
事件・犯罪の関連記事をもっと見る >