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American Picture Book Review
更新日:2019年4月26日 / 新聞掲載日:2019年5月3日(第3287号)

『王冠:フレッシュカット頌歌』

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『Crown: An Ode to the Fresh Cut』Derrick Barnes著/Gordon C. James画(Bolden)
散髪したてのサッパリかつ粋な髪型を“フレッシュ・カット”という。本作のタイトル『王冠(クラウン)』は少年のフレッシュ・カットを指し、サブタイトルは王冠を戴く高貴な者への「頌歌(オード)」となっている。

少年は馴染みの理髪店にやってくると、自分が彫刻の素材の大理石か新品のキャンヴァスのようだと夢想する。理髪師は、まだ少年の自分がまるで貴族であるかのようにケープをかけてくれる。仕上がった髪は芸術作品として美術館に展示されるのだ!

もう少し現実味のある話をすると、フレッシュ・カットは頭をよくしてくれる気がする。明日のテストで良い点が取れそうだ。クラスの可愛い女の子がきっと見つめてくれる。僕は学校のスターになれる!だから今夜はせっかくの髪が寝乱れないように気を付けよう。

ふと周りを見回すと、大人たちも髪を切っている。左隣りの男の人はスマートフォンを使っている。茶色く染めたソフト・モヒカンだ。なんだか社長っぽい。きっとIT企業のCEOだ。右隣りのヒゲの男の人はすごく威厳がある。きっとたくさんの天使に導かれ、護られるのだろう。だから二人とも見掛けをビシッと決めなくちゃダメなんだ……。

旧聞になるが、昨年末に楽天のオコエ瑠偉選手の髪型が取り沙汰された。メディアやSNSに「変な髪型」「訳の分からん髪形」「ふざけた髪型」と言った言葉が躍り、「プロ野球選手として恥ずかしくない髪型にせよ」、監督による「バリカンを入れるぞ」と言った発言まであった。

オコエ選手の父親はナイジェリア人であり、同選手の髪質は黒人のものだ。アジア人の髪質とは全く異なり、日本人の一般的な髪型はできない。いわゆる「プロ野球選手らしい髪型」とは直毛短髪を指すものと思われるが、それが無理な同選手は丸刈り以外にどうすればいいのだろうか。

同じ悩みを、筆者は日本の友人たちから聞く。黒人とのミックスの子を持つ母親たちだ。学校に地毛のまま行かせると「なんとかしろ」と言われ、整髪料を付けても、括っても、校則違反と咎められる。仕方なく縮毛矯正をさせるが、なぜ本来の髪質を「矯正」しなければならないのか。持って生まれた髪質は「劣る」ものなのか。

本作は黒人の少年が自分の髪を胸がはち切れんばかりに誇り、大人たちの髪型を憧憬の眼差しで見つめる物語だ。髪を通して、まだ子供の自分と大人の男性たちとの間に目には見えない繋がりすら育んでいる。ページを繰るたびに現れる、黒人の髪質を活かした特有の髪型を見れば、少年の誇りは当然に思えてくる。

最後のページでは、フレッシュ・カットを得た少年が「一点の曇りもない高貴な王族」のような気分でバーバーショップを後にする。少年の表情は心なしか、最初のページよりも大人びているのである。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
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