平成31年度 吉川英治賞贈呈式|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

受賞
更新日:2019年4月26日 / 新聞掲載日:2019年5月3日(第3287号)

平成31年度 吉川英治賞贈呈式

このエントリーをはてなブックマークに追加
左から小谷野、金田、大谷、藤井、塩田、西村、篠田氏
四月十一日、東京千代田区の帝国ホテルで、平成三十一年度吉川英治賞贈呈式が行われた。吉川英治文学賞は、篠田節子『鏡の背面』(集英社)、同文庫賞は「十津川警部」シリーズで西村京太郎氏、同文学新人賞は塩田武士『歪んだ波紋』(講談社)と藤井太洋『ハロー・ワールド』(講談社)、同文化賞は日本初の骨髄バンクを設立した大谷貴子氏、戦争孤児の実態を後世に伝えている金田茉莉氏、絵画修復に尽力する小谷野匡子氏がそれぞれ受賞した。
鏡の背面(篠田 節子)集英社
鏡の背面
篠田 節子
集英社
  • オンライン書店で買う
文学賞については、選考委員を代表して浅田次郎氏が選考経過を述べた。「これから先、もっと素晴らしい小説を書くと思いますが、これまでの小説を順序立てて読んできた者からすると、今回の作品は今までの集大成という気がいたしました。実によくできた小説です。ミステリ仕立てのようでありながら、ミステリの枠の中には納まりません。篠田さんの作品によくある傾向ですが、最後に少し謎を残す。読み終わった後、数十分考えさせられるんです。今日日稀に見る典型的な長編作家の骨格をもった方だと思います。文体といい、ダイナミックに展開するストーリーといい、その才能は余人をもって代えがたいと感じています」

次に逢坂剛氏が、文庫賞立会人として挨拶に立った。「西村さんの業績たるや赫々たるものがあって、これは池波さんの『鬼平』と同じで、何度読んでも楽しめる。それが娯楽小説の一番大切なところではないかと思います。超ベテランの西村さんの後を追いながら頑張っていきたいと思っております」
歪んだ波紋(塩田 武士)講談社
歪んだ波紋
塩田 武士
講談社
  • オンライン書店で買う
文学新人賞は京極夏彦氏が「今回もエンターテイメント性の高い、優れた作品が挙がって参りました。一方は新聞の業界の小説、一方はIT関係の業界小説として読むことができます。作者はお互い、その業界に実際にいらした方でありますからその点では似ているんですが、塩田さんの『歪んだ波紋』は、古いメディアを扱った小説で、オーソドックスな小説の手法で書かれています。出てくる新聞社は全て仮名であり、現実がフィクションとして描かれてそこには可能性も見えてくる。一つひとつの短篇が非常に優れており、連作として読むこともできます。一方で藤井さんの『ハロー・ワールド』は、全て実名ですが、近未来小説という体を取っている。書かれていることはほぼ今ある現実です。実は全くSFではないんです。こういう小説は暗い内容になることが多いですが、問題点を指摘しながらも、明るい方向性を私たちに教えてくれる。明るい未来を夢想できるという側面はエンターテイメント小説には必要だと思います」

同文化賞選考委員からは阿川佐和子氏が挨拶に立ち、歴代受賞の中で初めて全員が女性であること、また大谷貴子氏の五七歳は最年少受賞であること、などどに触れた。

文化賞受賞者の大谷氏は挨拶で、自身が元白血病患者であること、「骨髄バンクの設立は、決して人のためにしたわけではありません。自分が病気になったとき、治療法があるのに助からない、アメリカにしか骨髄バンクがないって、なんでやねん! と怒りから始まりました。立ち上げたとき、三日で終わるのではないかと思いましたが、設立から二十八年が経つ今、二万人以上の人が骨髄を提供してくれています」と話した。

また金田氏は、九歳のときに空襲で家族を亡くし、戦争孤児となったこと。波瀾万丈な生活がやっと落ち着いた五〇歳になってから、他の孤児たちはどんな生活をしてきたのかと思い、まずは自分史を書いて読んでもらうことから始めた。話を聞く中で、自分以上につらい生活を送った人のこと、同じ年代の子どもたちがたくさん餓死、凍死したことを知った。ところが孤児たちが生きてきた歴史はどこにも出て来ない。また戦争が始まれば孤児が生まれてしまう……と孤児の証言を集めるに至った思いを語った。金田氏の著書は、七月刊行予定。

小谷野氏は、東京藝大で学んでいたころ、エル・グレコの『受胎告知』を観、絵画の技法に魅せられて、修復の世界に入ったこと。ロックフェラー奨学金で、ニューヨーク大学で修復技術を学んだが、日本独自のカビや公害でダメージを受けた絵画については、適宜最適な手法を見つけ出してきた、などと話した。小谷野氏の指導を受けた絵画修復士は七〇名を超え、世界各地で活躍している。また九千件を超える絵画修復をほどこし、殊に藤田嗣治の「乳白色の肌」の生み出された秘法の解明には、世界的な評価を得ている。

贈呈式はその後、一段と華やかな祝賀会へ移った。
この記事の中でご紹介した本
鏡の背面/集英社
鏡の背面
著 者:篠田 節子
出版社:集英社
以下のオンライン書店でご購入できます
歪んだ波紋/講談社
歪んだ波紋
著 者:塩田 武士
出版社:講談社
以下のオンライン書店でご購入できます
このエントリーをはてなブックマークに追加
篠田 節子 氏の関連記事
受賞のその他の記事
受賞をもっと見る >
文学 > 日本文学関連記事
日本文学の関連記事をもっと見る >