支配と抵抗の映像文化 西洋中心主義と他者を考える 書評|エラ・ショハット(法政大学出版局 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年5月4日 / 新聞掲載日:2019年5月3日(第3287号)

支配と抵抗の映像文化 西洋中心主義と他者を考える 書評
「知の減退をもたらす欧州中心主義」を批判
ハリウッド映画に毒された日本人に反省促す

支配と抵抗の映像文化 西洋中心主義と他者を考える
著 者:エラ・ショハット、ロバート・スタム
翻訳者:早尾 貴紀、内田 (蓼沼)理絵子、片岡 恵美
出版社:法政大学出版局
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本書は七〇〇点近い映画作品を細かく分析した興味深い五〇〇ページの文明論の力作である。蘊蓄ある記述に満ちている。例えばラップ音楽。その起源は口承だった。米国の黒人やラティーノ(ラ米系)の労働者階級に属する十代の青少年が主な作者であるラップは、アフリカ音楽のコール&レスポンス(応唱)や出演者と聴衆の掛け合いから生まれた。遡ればナイジェリアやガンビアの共同体の口承表現に行き着く。デカルトの「我思う、故に我あり」でなく、「皆と共にいる故に我あり」という先住民族共同体に共通する思想に立つ。だから音楽には個人主義、消費主義を超えた共同体主義の機能がある。このような音楽が映画に流れれば、その音楽は映像の物語に属するのではなく、映画を生む母体を形成する。この件から評者は、「社会主義は幻想の共同体を創る事業であるが、人工的共同体には音楽が生まれず、だからうまく行かないのではないか」と連想した。

ブラジルのカーニバルは異質性、表現の矛盾、混淆を好み、形だけの調和や統一を拒否する反古典的な美学を包含。そのリアリズムは大衆的で激しい「反逆の美」という新しい美学の位置づけのため、「低俗なもの」の力強さや隠れた美のグロテスクさを見せつけ、静的で完璧な古代彫刻のもつ「美のファシズム」を拒絶する。アフロブラジル化した大衆文化が支持され、ハリウッド・ギリシャ型の美は負ける。抑圧された人々が「実際にはない社会秩序」を演出し「ある種のユートピアの予行演習」とも捉えられるカーニバルは、既得権益層を不安がらせる。ブラジルのエリートが抱くカーニバルへの敵意は、黒人差別やアフリカ系宗教への憎悪と関連づけられる。一九七〇~八〇年代あったブラジル映画の「再カーニバル化」は、映画制作者が観衆と再び接触する手段だった。このような面白い記述がこれでもか、これでもかと続く。読者は脇に事典や世界史書を置くのが良い。

米国人とイラク系米国人である著者は「欧州中心主義が知の減退をもたらすと確信」し、「欧州中心主義は植民地主義、帝国主義、人種主義の言説に共通するイデオロギーの土台をなし、現代の実践と表現に浸透する姿のない思考形式」と批判。これを克服するため「多中心的な多文化主義」を提唱する。一九九四年に刊行された本書は映画論には必読の「現代の古典」と評価されている。四半世紀後にようやく日本語で読めるようになった。

著者は、米国の政策やハリウッドの作風を厳しく批判する。コロンブスは、イスラム、ユダヤ両教徒を迫害・排斥したカトリック王国スペインの「反異教徒イデオロギー」を新大陸に持ち込み、先住民を殺戮した。「大虐殺時代」は欧州人には「大航海時代」であり、莫大な富を欧州にもたらし資本主義の基盤を強化、植民地主義を確立した。欧州中心主義は植民地拡張とともに米州全域に拡がる。北米では、「天命で」他者を制圧・支配する「米国例外主義」という唯我独尊の帝国主義を編み出した。

「西部劇」は、欧州・白人優越主義イデオロギーを拡散させ、日本人を含む非白人民族に与えた影響も大きい。「肌は黄色いが心は白い」という意味の日本人の「バナナ化」は「名誉白人化」を促し、テレビや新聞雑誌の商業広告は白人モデルでいっぱいだ。しかし本書には、なぜか日本映画が取り上げられていない。その物足りなさを補うような指摘が「訳者解題」にある。「大戦後の日本は占領期・東西冷戦期の反共主義、九〇年代以降の反イスラム主義など極めて強い米国イデオロギーの影響下にある。米国の正義を自明視、内面化、規範化してきた日本人は反省し、そこから批判的距離を置くべき」だと強調。「本書はそのための視点を提供してくれる」と読者を誘う。因みに約七〇〇の作品のうち評者が観た映画は五〇点にすぎなかった。
この記事の中でご紹介した本
支配と抵抗の映像文化 西洋中心主義と他者を考える/法政大学出版局
支配と抵抗の映像文化 西洋中心主義と他者を考える
著 者:エラ・ショハット、ロバート・スタム
翻訳者:早尾 貴紀、内田 (蓼沼)理絵子、片岡 恵美
出版社:法政大学出版局
以下のオンライン書店でご購入できます
「支配と抵抗の映像文化 西洋中心主義と他者を考える」出版社のホームページはこちら
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