レオナルド・ダ・ヴィンチ 上 書評|ウォルター・アイザックソン(文藝春秋)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年5月4日 / 新聞掲載日:2019年5月3日(第3287号)

レオナルド・ダ・ヴィンチ 上 書評
レオナルドのなした営為のすべて
著者から肉声で語られるかの「天才」の多様な顕現の記述

レオナルド・ダ・ヴィンチ 上
著 者:ウォルター・アイザックソン
翻訳者:土方 奈美
出版社:文藝春秋
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 レオナルド・ダ・ヴィンチは一五一九年四月二三日、六七歳で亡くなった。二〇一七年に刊行された本書が、日本語訳によって紹介されたのは、没後五〇〇年を期してということになる。この五〇〇年という期間は単にきりがよいというだけに止まらない。驚異的な科学文明の発展、細分化した期間であった。レオナルドの生きた時代はその先駆けであったと言ってよい。ニュートンやアインシュタインのような「ふつうの人間には想像もできないような頭脳を持って生まれたわけではない」(第一章)レオナルドによって科学文明の黎明期、何がなされたのか。勿論、レオナルドは「歴史上数少ないその(天才の)称号にふさわしい人物」(第三三章)ではあった。しかし、その天才は普通のわれわれの認識の階梯上の頂きにあった。本書はレオナルドの万能、および人間としてのあり方を丁寧に、主として膨大な「自筆ノート」を読み解くことで追っていった書である。

本書は上下、合わせて七〇〇ページを超える大作である。しかし、「序章」「結び」を入れて、三五章に分けられており、それぞれ、「第一章 非摘出子に生まれた幸運」のように小見出しが付され、適宜、一四四枚の図版が挿入され、分量上の労を感じさせない工夫がなされている。図版には疑義のあるものや模作を含め、「自筆ノート」上のデッサンなど、レオナルド作に関わる主要な絵画が網羅的に紹介されていて、絵画愛好者にとって、レオナルド作品全集のごときものとして便利な書ともなっている。

ただし、本書を単なる美術紹介書として読むと失望するかも知れない。著者はその天才の発露の頂点が絵画にあったことを意識しており、二十代半ばに書いた『ジネーヴラ・デ・ベンチの肖像』から『モナリザ』への到達が本書の内なる骨格をなしているとは言うものの、科学者、技術者としての面に言及することの方がはるかに多い。絵画に関しても、壁画やタブローへの言及より「自筆ノート」に書かれている機械装置や人物・動物などのデッサンを取り上げることの方が多い。あくまでも、本書はレオナルドのなした営為のすべてを描きだそうとしたもので、そこに本書の魅力がある。

また、本書を「ダ・ヴィンチ伝」の最終決定版として、レオナルドを主人公にした物語と誤解すると失望する。確かに、レオナルドの生涯を誕生から死まで、ほぼ年代順に追ってはいるが、それは枠組みであって、著者の意図はレオナルドの「天才」の多様な顕現の記述にある。文体も物語風ではなく、評論、研究書に近い。つまり、著者は小説のごとき虚構を避け、できる限り客観的事実および先行研究による解明に基づくという方針を崩さないのである。本書に付された膨大な注はそのことを示している。もっとも、研究書を読むようなかたくるしさはない。注の内容は、批判的見解を含めて本文の中に溶け込んでおり、著者から肉声で語りかけられている感がある。このことは著者が真の意味でのジャーナリストであることを示しているのかも知れない。

本書は映画化が決まっているという。本書にはない登場人物の会話のやり取り、日常の行動をどのように描くのか。脚本家の手腕、乞うご期待といったところである。最後に付け加えるべきは、土方奈美の翻訳のことである。得てして、本書のようなものは、日本語としてこなれていない場合が多い。本書は翻訳であることをまったく意識せずに読めた稀な例である。
この記事の中でご紹介した本
レオナルド・ダ・ヴィンチ 上/文藝春秋
レオナルド・ダ・ヴィンチ 上
著 者:ウォルター・アイザックソン
翻訳者:土方 奈美
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
レオナルド・ダ・ヴィンチ 下/文藝春秋
レオナルド・ダ・ヴィンチ 下
著 者:ウォルター・アイザックソン
翻訳者:土方 奈美
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
「レオナルド・ダ・ヴィンチ 下」出版社のホームページはこちら
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