対談=井上達夫×渡辺靖 リバタリアニズムから時代を考える 『リバタリアニズム』(中央公論新社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年5月10日 / 新聞掲載日:2019年5月10日(第3288号)

対談=井上達夫×渡辺靖
リバタリアニズムから時代を考える
『リバタリアニズム』(中央公論新社)刊行を機に

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第9回
日米安保の認識の甘さ 社会運動のマネジメント

井上 
 僕から渡辺さんに聞きたいのは、リバタリアニズムはミレニアム世代の中で、支持が高いということですが、彼らは外交に関してはどう考えていますか。アメリカがもし世界中にある米軍基地を整理縮小していく方向性の中で、韓国から撤退がありうると仮定したときに、日米安保の解消をアメリカ側から求めてくることがありえると思いますか。
渡辺 
 それについてはリバタリアン系のシンクタンクの人たちとも話しましたが、一昔前は、日本からの即時撤退という議論もあったものの、現実的な脅威である北朝鮮や中国を見据えているようです。つまり、将来的には撤退方向に進むべきだとしても、当面の間はプレゼンスを継続していくべきだと。ただ、日本により負担を求めていくべきだとも考えています。これ以上日本の負担が増えると、米軍が事実上、日本の傭兵になってしまう気もするのですが。
井上 
 日本へのさらなる負担転嫁を求めるリバタリアンは、日米安保で米国が日本を防衛してあげているというイメージに依然囚われているようですが、日米安保の実態認識が欠けている。歴史認識も歪んでいます。米軍が日本の傭兵になるどころか、日本が既に米国の属国になっているわけで、日本へのさらなる負担転嫁は日本の対米属国化の完成です。基本的に日米安保は、米国が日本を守るためというより、米国の世界戦略の拠点として日本を利用するための体制です。東京を含む広範な地域の航空管制権を、米軍横田基地が握っている。日米地位協定の運用に関する日米合同委員会の合意事項では、在日米軍基地から、他の国へ直接出動する場合には日本政府の同意が必要だけど、第三国を経由すれば、日本政府の同意もいらない。全土基地方式で日本じゅうどこにでも在日米軍基地を作ることができる。日本は米国の世界戦略の拠点であり、かつその経費の七割から八割を日本が払っている。日本は米国が勝手に遂行した他国への軍事介入にその意に反して幇助犯として加担させられる。占領が終了したにも関わらず、その後七〇年近くもの間、日本は米国に対するこんな軍事的属国状態を受け容れているわけです。米国にとってこれほどおいしい軍事同盟はない。
渡辺 
 リバタリアンはアメリカの介入主義政策が反米感情を煽ったり、周辺国を刺激することを危惧しています。中東が典型例で、アメリカが介入したことによって情勢が泥沼化していると。私もそうした側面は否定しません。ただ私は、いまの状態で中東からアメリカが拙速に手を引いたら、力の空白が生まれて却って危ういと思っています。安全保障に関しては、北東アジアで暮らす私からすると、ずいぶん呑気だと思うことはありましたね。
井上 
 ハーバード・リバタリアン・クラブ(HLC)の設立は九〇年代?
渡辺 
 二〇〇四年です。
井上 
 学生が自分たちで立ち上げたのですか。
渡辺 
 リバタリアニズムを標榜する政治家のロン・ポールが、学生たちに組織化をすすめ、やはりリバタリアンで実業家のコーク兄弟が、組織運営にあたっては支援をすると。そういう後ろ盾もあり、当時イラク戦争反対運動などをしていた学生たちがあちこちで組織を作り始める中で、ハーバード・リバタリアン・クラブも生まれました。
井上 
 一九六〇年後半から七〇年代のスチューデント・ラディカリズムは、割と左翼的なものでしたが、その後は学生のノンポリ化が世界的な潮流でした。現在、学生たちが何かに対して立ち上がるというイシューが少ない中で、リバタリアン的な構図による現状改革は、ラディカルですね。学生たち、しかも高校生などが、あっという間に運動の組織化をする。それも背後に資金を出す人がいるからなんですね。
渡辺 
 日本では考えられないですね。それが冒頭で井上さんが指摘されたアメリカならではの、建国精神のDNAでしょうか。「自由のための学生」(SFL)という全米最大の学生組織の年間予算は四◯◯万ドルです。

ハーバードでは、トランプ的な排外主義やナショナリズムに惹かれる人は皆無に等しいでしょうが、逆に、バーニー・サンダース的な民主社会主義に傾倒する学生は一定数いるようです。一方、すぐ近くにあるマサチューセッツ工科大学などは理工系という違いもあるかもしれませんが、キャンパスの約四人に一人の学生が、リバタリアンに近い考えを持っているとの調査もあります。そうしたサイレントマジョリティの力は、この後の大統領選、そして今後のアメリカ社会に少なからぬ影響を与えるのではないかと思います。

そうした運動の組織化を指南する、コンサルタントもアメリカには多くいます。草の根民主主義の強さですね。
井上 
 マネジメントとは、単に企業経営だけじゃない。社会運動にも必要で、活動目的と組織体制を明確に立てて、協力者を発見し、資金援助を得る。企業実践と社会運動は通底するところがある。
渡辺 
 トランプの選挙参謀だったステーィブン・バノンが、ヨーロッパや南米を飛び回って、極右勢力にトランピズムの成功体験をコンサルティングしているようです。

ポピュリズムやトランプ政権、次期大統領選については、また日を改めて、お話できればと思っています。(おわり)
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この記事の中でご紹介した本
リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義 /中央公論新社
リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義
著 者:渡辺 靖
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義 」出版社のホームページはこちら
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