対談=井上達夫×渡辺靖 リバタリアニズムから時代を考える 『リバタリアニズム』(中央公論新社)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年5月10日 / 新聞掲載日:2019年5月10日(第3288号)

対談=井上達夫×渡辺靖
リバタリアニズムから時代を考える
『リバタリアニズム』(中央公論新社)刊行を機に

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第8回
公共財の中の治安と防衛

渡辺 靖氏
渡辺 
 アメリカのリバタリアンを今回、いろいろ取材してきましたが、トランプ政権に対しては、減税や規制緩和の点では評価する人もいますが、一方で排外主義的な傾向、そして何よりも権威主義的な手法が許しがたいとの声が多かったです。民主的な手続きをなおざりにしていると警戒しています。もう一つ懸念しているのが、トランプ政権になって軍備拡張が急速に進んでいるということで、これは政府を大きくし、ゆくゆくは財政も圧迫し、増税となり、個人の自由を蝕んでいくだろうと。

その一方、私が彼らの話を聞いていて不安に感じたのが、安全保障に関する観点です。いまのアメリカの果たしている役割を考えると、リバタリアン的な孤立主義的志向、あるいは軍の縮小・撤退志向をそのまま実現すると、逆に、非常に不安定な世界になるのではないか。その辺りはどうお考えでしょうか。
井上 
 公共財の中の治安と防衛ですね。ノージックは国内の治安維持に任務を限定された最小限国家を擁護しますが、対外防衛の話はしていませんね。

リバタリアンの中で一番ラディカルな、アナルコ・キャピタリズムも同様で、警察に代えて民間でガードマンを雇えばいいとしますが、防衛のための軍隊をどうするのかはっきりしない。国家がなくなれば戦争もなくなると考えているかもしれませんが、保護サーヴィス業者のような、国家の機能的等価物としての「暴力装置」はあるわけで、異なった保護サーヴィス業者と契約する顧客集団間での紛争は起こりうる。この場合、保護サーヴィス業者同士が傭兵軍隊として戦争することになるのか。だとすれば、保護サーヴィス業者は警察と軍隊を兼ね備えた危険な暴力装置になるわけで、アナルコ・キャピタリズムの世界は現存国家と実質的に変わらないのではないか。

リバタリアンは軍事力縮小を唱え米国の軍事的世界支配を批判するけれど、彼らが誇りにしている現在のアメリカの経済的繁栄は、アメリカの巨大な軍事力が支えています。国際政治経済システムについて米国企業が有利なようにアメリカのスタンダードを諸外国に押し付けられるのは、軍事力あってこそです。

トランプは「世界の警察官を止める」などといっているけれど、アメリカが大人しくなるかというと、そうではない。アメリカ・ファーストを恥かしげもなく主張し、精神的な指導力であるソフトパワーを米国は喪失している。ソフトパワーの欠損を埋め合わせるために、ハードパワーに一層依存せざるをえず、一方的経済制裁や軍事的恫喝などで自己の主張をゴリ押しするようになるでしょう。

日米の通商関係においても、米国がTPPを離脱して二国間交渉で日本に無理な譲歩を迫るのは、日米安保があるからです。日本はアメリカの軍事的属国として、いいたいことがいえない。アメリカの強さとは、精神的権威で世界秩序形成を指導するソフトパワーというより、世界中に散らばっている軍事基地の力です。
渡辺 
 リバタリアニズムの思想的な始祖の一人とされるアダム・スミスには、国家にとって常備軍は必要だという、明確なリアリズムがあったのですが、現在のリバタリアンの中の一定数の人たちは、軍備すらも、「大きな政府」の元凶だと否定しています。ただそこはリバタリアンたちも迷うところのようで、恒久的な同盟関係の締結を否定した初代大統領ジョージ・ワシントンの精神を純粋に継承している人がいる一方、現実を考えればアメリカの自由を守るためにも必要だろうという人もいます。テロとの戦いという面から、イラク戦争を支持する人さえいます。もっと徹底的に反戦・平和の人たちなのかと思っていましたが、必ずしもそうではないという印象です。
井上 
 アメリカ経済にとって、軍事産業は基盤です。航空産業はもとより、インターネットも元は軍事情報システムの脆弱性を除去するためにペンタゴンが開発したものです。アメリカの膨大な防衛予算は、革新的な技術開発にも使われている。IT革命は、軍事技術開発の成果の民需移転に依存していた。
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この記事の中でご紹介した本
リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義 /中央公論新社
リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義
著 者:渡辺 靖
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「リバタリアニズム アメリカを揺るがす自由至上主義 」出版社のホームページはこちら
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