あの日からの或る日の絵とことば  3・11と子どもの本の作家たち 書評|筒井 大介(創元社 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年5月11日 / 新聞掲載日:2019年5月10日(第3288号)

あの日からの或る日の絵とことば  3・11と子どもの本の作家たち 書評
切実に抱え込まれた細やかな物語
絵本作家の優しさ、強さ、美術の力

あの日からの或る日の絵とことば  3・11と子どもの本の作家たち
著 者:筒井 大介
出版社:創元社
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あの日とは、東日本大震災の三月十一日のことだ。他人にとっては些細な物語を、絵本作家たちは切実に抱え込み、絵と言葉で紡ぎ始めていると考えた編者の筒井大介が、個人的エピソードを三二人の絵本作家に依頼した。

彼らのアプローチの仕方はさまざまで、「僕は夕方早々に荷物をまとめて京都に逃げ帰った。その後の次第に明らかになる原発事故と東北の傷跡をテレビで見ながら、僕はひたすら絵に逃避した。」(中川学)、「僕の魂というものに質量があるならば、もうその半分はあの時どこかにいってしまって、そのまま、戻ってきていないのではないか。嬉しいことも悲しいことも、少し離れて、水に映った映像のように眺めてしまっているような風である。」(ナカバン)、「どうか、せめて、大事なことをちゃんと『覚えているフリ』が上手になりますように。そして、どうか恐怖を、不安を『忘れているフリ』も上手になりますように。」(ヨシタケシンスケ)と、内面の傷もさまざまである。

そういった中で、何事もなかったように震災前の日常が始まったことに、「もし、あの時あのままもうしばらく、あの重く沈鬱なムードの中で、人々が目の前に突きつけられた巨きなテーマとひざをつきあわせていたらどうだっただろうと今になって思うのだ。(中略)私たちはあの大震災と、そしてそのあとの暗く淀んだ『自らの気持ち』そのものを奇貨とするたまさかの機会を失ってしまったのではないだろうか」という原マスミの文には考えさせられた。また、スズキコージが描く広島の原爆ドームが「またか、何やってんだ!」と人間社会を見下ろす顔も印象的だ。

私は、震災以後、閉じ篭り気味だったが、破壊した世界を三つ編みで再生する『アウスラさんのみつあみ道』(石風社)をスタシスの絵で書いた。ただ、水が流れ落ちる絵を、暴風に変えてもらったのは、津波のイメージに向かえなかったからである。そのため、「はやくかえりたいのです」と津波の中を泳いでいる男性を描いた長谷川集平の『およぐひと』(解放出版社)を見た時には驚愕したが、この絵本は、本書ではとりあげられていない。

「カタストロフと美術のちから展」(森美術館)の中の「破壊からの創造—美術のちから」のような力強さや問題定義を、編者はあえて前面に出さなかったと思う。絵本作家たちの優しさやシャイさが、ひたひたと私たちを包み込むと信じてのことだろう。ただ、あの日に関する絵本作品そのものを、もう少し知りたかったようにも思う。

たとえば、町田尚子作『ネコヅメの夜』(WAVE出版)の夜空に輝く猫の爪のような月は、町田が原発被災地に取り残された犬猫の給餌ボランティア活動に参加した経験によるとのこと。月を見上げる猫たちの顔の強さは、作者がふれあった猫だからこそであろう。

放射能が一杯の立ち入り禁止区域で、怒りの拳をふりあげるのではなく、牛飼いとしての仕事をあきらめず、一銭のお金にもならない牛を飼い続ける人を描いた森絵都作、吉田尚令絵の『希望の牧場』(岩崎書店)。著者名前順に編成された本ではあるけれども、この本で締めくくられたことに、編者の思いが奇跡的に重なったように思う。絵本作家たちの優しさが強いものだと教えてもくれる。
この記事の中でご紹介した本
あの日からの或る日の絵とことば  3・11と子どもの本の作家たち/創元社
あの日からの或る日の絵とことば  3・11と子どもの本の作家たち
著 者:筒井 大介
出版社:創元社
以下のオンライン書店でご購入できます
「あの日からの或る日の絵とことば  3・11と子どもの本の作家たち」出版社のホームページはこちら
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