食べるとはどういうことか 世界の見方が変わる三つの質問 書評|藤原 辰史(農山漁村文化協会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年5月11日 / 新聞掲載日:2019年5月10日(第3288号)

食べるとはどういうことか 世界の見方が変わる三つの質問 書評
食と農の未来に託す希望
シンプルな問いから生まれる等身大の哲学対話

食べるとはどういうことか 世界の見方が変わる三つの質問
著 者:藤原 辰史
出版社:農山漁村文化協会
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食べる。この誰もがひとり残らず繰り返している行為への凝視が、歴史や社会、そして人間を根本的に描き直すことにつながる。そのことを著者のこれまでの著作に気づかされた読者は少なくないのではないだろうか。「食べる」ことは誰にとっても等しく「身近な」ことであるがゆえに、それはまさに、実感をもって「世界の見方が変わる」経験となる。評者自身も、著者からの問いかけによって世界の見方が変わった一人である。

本書の魅力は何といっても「食べるとはどういうことか」というきわめてシンプルな問いを軸にして、気鋭の研究者である著者と、12歳~18歳の個性豊かな8人の中高生たちとの「等身大の哲学対話」がライブ感たっぷりに記録されていることである。読み進むにつれ、読者自身もその対話に加わっているような錯覚を覚えるのは、予定調和ではない議論の面白さとその行方に、グイグイと惹き込まれていくからだろう。即興的に「『食の哲学』という本をみんなで書くとしたら」と新たな問いが生まれた場面では、中高生たちの瞳がますます輝き、真剣みを帯びる様子が目に浮かんだ。すぐには言葉にならない考えや感情を丁寧に積み上げていくように話し合う場面では、「私だったらどう言おうか」と一緒に考えていた。答えを探すのではなく、みんなの「考える種をまく」という本書を貫くメッセージは、この実践そのものを体現しているように思われる。

本書の構成は3つの問いとそれに対する哲学対話、コラム、アフタートークから成る。3つの問いは著者の言葉を借りれば「あたりまえのことを問い続けるスリリングさ」をはらんでいる。最初の問いは「いままで食べたなかで一番おいしかったものは?」。ここでは中高生たちの経験が語られつつ、普段何気なく使う「おいしい」という言葉にいかに様々な意味が含まれているかという議論が展開する。次の問いは「『食べる』とはどこまで『食べる』なのか?」。食べもの(例えば豚)の立場になって考え、私たちの口と肛門が自然とつながっているという実感をもつと、「食べるということ、食べものは、生きているものたちによってにぎわっている世界のなかの、ものすごい大きな循環のなかの一部にすぎない」ことがわかる。著者の「人間チューブ論」と呼応しながら、食べる場面だけでは見えていない世界に気づかされる問いである。最後の問いは「『食べること』はこれからどうなるのか?」。この問いに対する議論のプロセスを見つめることで、早急に答えを求めるのではなく、こうして食と農の未来を中高生たちとじっくり考えることが、未来へ希望をつなぐことになるのだと確信させられる。惜しむらくは、産直米のおにぎりを握り、豚汁を食べながら熱いトークが繰り広げられたという「お昼休憩」の詳細も読みたかった。彼らはおにぎりをどんなふうに握ったのか、どんな味だったのか、豚汁の豚についてどのような会話が交わされたのか……。これまでの対話とお昼ご飯の体験はどのように接続したのだろうかと想像を巡らせたのは、おそらく評者だけではないはずである。

最後にこの本が首都圏を中心とする12都県へ食材などを宅配する生活協同組合グループ(パルシステム)と農山漁村文化協会の共同企画から生まれたことにも触れておきたい。その経緯をふまえると、食と農をめぐる等身大の哲学対話を続けていくこと自体が、次世代の新しい消費者を育て、未来の一皿に希望を託す壮大な試みなのだと理解できる。つまり、本書は、その試みの確かな「始まりの一歩」を書き留めた貴重な記録ともいえるのである。
この記事の中でご紹介した本
食べるとはどういうことか 世界の見方が変わる三つの質問/農山漁村文化協会
食べるとはどういうことか 世界の見方が変わる三つの質問
著 者:藤原 辰史
出版社:農山漁村文化協会
以下のオンライン書店でご購入できます
「食べるとはどういうことか 世界の見方が変わる三つの質問」出版社のホームページはこちら
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