飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史 書評|林 采成(古屋大学出版会 )|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年5月18日 / 新聞掲載日:2019年5月17日(第3289号)

飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史 書評
印象論を越えて、体系的な関係史を見せた労作
日本と朝鮮における経済と文化の変容

飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史
著 者:林 采成
出版社:古屋大学出版会
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カンボジアやラオスでパンを探すと、登場するのはフランスパンである。ところが、国境を越えてタイやミャンマーにいくと、いわゆる食パンが一般的になる。あるいは、オランダのホテルでインドネシア風のチャーハン、ナシゴレンや焼き鳥、サテが普通のメニューで登場したり。

そのような食のちょっとした発見から、かつての植民地という関係を思ったりする(為念。タイは植民地にはならなかったが、相対的にイギリスの影響が強かった)。

個人的な話をすると、わたし、戦後十年してから生まれたが、幼い頃から生まれ故郷の水俣では、「朝鮮漬け」と呼ばれた漬け物と馴染んでいた。キムチというのと知ったのは随分と後だ。水俣は周知のようにチッソの城下町。戦前、チッソは植民地朝鮮にも工場を持っていて、戦後、そこから引き上げてきた人たちがいっぱいいたものだから、朝鮮風の漬け物が身近だったのだ。辛さを少し抑えたアレンジの。

あるいは、一九七〇年代から韓国には行っているが、そこで見つけた酢飯ではない海苔巻き、キンパップやジャージャー麺に添えられたタクアン、コチュジャンがのった刺身丼、フェトッパプに複雑な歴史を思ったものだ。

というわけで、本書。

私みたいに、かつて植民地だったという関係の国々を見たら、誰もが抱く印象論を遙かに越えて、体系的にその関係史を見せてくれた。大変な労作というしかない。

植民地となった朝鮮が、大日本帝国という枠組みの中で、再編された食の経済史という視点で多くのことを教えてくれている。

「在来のものが帝国の枠組みのなかで再発見され、日本内地や中国などへ輸移出される史的展開」や「植民地朝鮮にはなかった新しい食料が植民地本国を経由して導入されるか、あるいは日本内地にはなかった味の食料が日本へ導入されるプロセス」、「アルコールと煙草の再編が植民地財政と朝鮮人の食生活に及ぼす影響」というような視点から見た産業史である。そして、それは見事に食文化の変容の一つの側面を見せてくれるのだ。

私事をまた言わせてもらうと、常々、食文化という視点から物事を見てきたが、経済史という視点がこれほど見事に文化を照らしてくれるものだとは思わなかった。目から鱗がぼろぼろと落ちるような話ばかり。

たとえば、在来の米が帝国の米として(日本人の嗜好に合うように)品種改良され、日本内地で消費される。そこで鉄道道路のネットワークに都合のよい場所から日本人のものとなり……。植民地支配の中で、栄養状態、平均身長がどのように変化したか(一九〇〇年代から一九二〇年代半ばにかけては二センチ増加したが、その後、終戦まで減少している)。そのような詳細を、東畑精一等の先行研究から丁寧に触れたうえで、新しい知見まで加えている。

あるいは、「天は祖国に一大好牧場を恵与」したと言うように、朝鮮で飼われていた牛が大量に日本に送られた。日本の食の変容にさて、どれだけの影響を与えたろう。

あるいは、今や博多名物を越えて、日本でも一般的な食べ物と化している明太子。これは朝鮮半島からどのようにもたらされたか。

あるいは、ビールのように明治維新以降の近代化の中で日本人が憶えた味を持ち込み、それが(ヤンパンのように富裕層を中心にだが)定着していったような例も。ただ、それも単純に持ち込まれたというより、帝国の経済構造の中で、本国のマーケットや企業を優先にした構図でであるが。

そのような様々な要素から、経済と文化の変容を詳細に述べている。「朝鮮半島の近代化に日本が寄与した」という脳天気な「愛国者」の声が、如何に愚かな戯言かも、冷静に教えてくれる。

そうそう。直前に、湯澤規子『胃袋の近代』という本を読んで感嘆していた。他にも名古屋大学出版会から興味深い書籍が多々。感性鋭い編集者がいる様子。注目に値します。
この記事の中でご紹介した本
飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史/古屋大学出版会
飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史
著 者:林 采成
出版社:古屋大学出版会
以下のオンライン書店でご購入できます
「飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史」出版社のホームページはこちら
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