安彦良和の戦争と平和 ガンダム、マンガ、日本 書評|杉田 俊介(中央公論新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年5月18日 / 新聞掲載日:2019年5月17日(第3289号)

安彦良和の戦争と平和 ガンダム、マンガ、日本 書評
安彦良和の思想や創作観の全貌
ファンはもちろん、広大な作品世界の入門書として

安彦良和の戦争と平和 ガンダム、マンガ、日本
著 者:杉田 俊介
出版社:中央公論新社
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安彦良和といえば『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー、アニメーターとしての活躍、ガンダムを安彦良和流にマンガ化した『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』とガンダム関連作を思い浮かべる人が多いだろうが、同時に氏はキリスト教や日本近代史、古代史をテーマとした膨大なマンガ作品も手がけている。そして、その多くも悪や善、英雄や凡人といった単純な形容で割り切れぬ歴史上の人物の悲哀を描き出してゆく名作揃いなのだ。

近年安彦良和関連本としては、学生運動時代の仲間たちとの対話篇『革命とサブカル』(2018年)、その人生と創作との関わりを語った『原点 THE ORIGIN』(2017年)が立て続けに出ているが、インタビュー本である本書『安彦良和の戦争と平和 ガンダム、マンガ、日本』は、作品を読解することに集中している点がおもしろい。一作だけでなく、全作を通して安彦氏に意図や狙いを語ってもらうことで、氏の思想や創作観の全貌が見えてくる。
その聞き手となるのは批評家の杉田俊介。彼が自身の作品読解をぶつけるたびに安彦氏はそれを受け流し、反論し、とつぎつぎに否定されていく。肯定も多々あるわけだが、その応酬それ自体が、安彦氏が本書の中で述べているガンダムのテーマについての発言──「人と人とはわかり合えなくて当たり前なんです。もちろん、わかり合えないから何をしてもいい、というのもまた危うい。つまり、わかり合えない、というところからはじめて、「でも、わかり合えたらどんなにいいのだろう……」と考えると、相手のいいところが見えてきたりもするわけですね。」とも重なり合っているようで、これ自身が安彦氏の作品であるかのようにも読める。

興味深いエピソードに事欠かないが、どのような意図のもとORIGINを描きあげていったのかと共に語られる原典への深い愛情にはどれもぐっときた。「避難民達の姿を描いた、ということそれ自体にもう愛があると僕は思うんですよね。」という発言や、誰であってもニュータイプでありえるのかもしれないと予感させるラストシーンについて繰り返し述べられる「あれはとてもいい終わり方だった」という感情のこもった振り返りであったり。アニメから一度は離れた氏が、ORIGINに関しては最後の心残りとして、いまだ完全な形でのアニメ化を諦めていないことも明かされ、依然として人生において最重要の位置を占めていることもわかる。

歴史シリーズの方では、特に氏の歴史観や英雄の描き方についての語りが興味深い。歴史を描く以上その大筋と結末は決まっているものだが、安彦氏は「ただ、現場感を持ってそれに迫りたい」と語る。「現場感をもって一つの事件を描ききれば、歴史の違う見え方が出てくるかもしれない」とも。また、歴史上の偉人──たとえばジャンヌ・ダルクであれば、彼女を奇跡的な人物として描写するのではなく、死を前にしておびえる普通の女の子でありながら、そんな子がジャンヌ・ダルク足りえたのはなぜなのか? を解き明かしていくように、描きづらい複雑な部分をあえて物語としての主軸に据えていくところに安彦良和マンガの素晴らしさの一端があると、本書を読んであらためて捉え直すことができた。

ガンダムファンや安彦良和という一人の作家のファンのみならず、本書から氏の広大な作品世界への入門も果たすことができる、貴重な一冊だ。
この記事の中でご紹介した本
安彦良和の戦争と平和 ガンダム、マンガ、日本/中央公論新社
安彦良和の戦争と平和 ガンダム、マンガ、日本
著 者:杉田 俊介
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「安彦良和の戦争と平和 ガンダム、マンガ、日本」出版社のホームページはこちら
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