〈今なぜ批評なのか〉 第二回「真の知性とは何か/平成とはいかなる時代だったのか」 與那覇潤×綿野恵太|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年5月17日 / 新聞掲載日:2019年5月17日(第3289号)

〈今なぜ批評なのか〉
第二回「真の知性とは何か/平成とはいかなる時代だったのか」
與那覇潤×綿野恵太

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四月一二日、東京・神田神保町のイベントスペース「読書人隣り」で、連続トークイベント〈今なぜ批評なのか〉の第二回が開かれた。批評家・綿野恵太氏が、毎月ゲストYAX、議論する。今回のゲストは與那覇潤氏。テーマは「真の知性とはなにか/平成とはいかなる時代ったのか」。この模様は、近日、動画にて配信予定である。       (編集部)
第1回
平成とはどんな時代だったのか

綿野 恵太氏
綿野 
 今回は、昨年『知性は死なない』(文藝春秋)を刊行された與那覇潤さんをゲストにお迎えしました。双極性障害の闘病体験を記録するとともに、平成の時代を振り返られた本です。今日も平成とはどんな時代だったか、がテーマの一つになると思いますが、與那覇さんとはほぼ十歳離れているので、世代的な見方の違いも表われてくるのではないでしょうか。與那覇さんは今、宇野常寛さん責任編集の『PLANETS』のメルマガで「平成史――ぼくらの昨日の世界」を連載されています。最初にまず、與那覇さんにとって平成とはどんな時代だったのか、お聞かせいただけますか。
與那覇 
 平成を「幻滅の時代」と捉えるか、「そもそも希望なんてあったの?」と感じるか。そこに世代差が現れるように思います。平成がはじまった一九八九年に、ベルリンの壁が崩壊して冷戦が終わり、国内でも九三年に非自民の細川政権が成立する。新しいポジティブな方向へ向かっていく雰囲気が平成の序盤にあったのを、覚えているか否かが大きい気がするんですね。細川政権の前後には小選挙区制の導入をはじめとした「政治改革論」が活発に議論され、大学教授ら知識人が口だけではなく、実際に世の中を変えていくんだという空気があった。それが平成後期に「反知性主義の時代」へと逆転するから幻滅を感じるわけですが、綿野さんの世代は違った印象をお持ちではないですか。
綿野 
 細川連立政権が小学校の入学以前でほぼ記憶にないですね。私にとっては平成という時代はなにも変わらないまま過ぎていった印象が強いんですよ。ずっとよくない雰囲気が続いている。
與那覇 
 ただカオスだけがあって、起伏がないということですよね。たとえば僕がかつて専門にしていた日本史の分野では、九七年冒頭の「新しい歴史教科書をつくる会」発足(以後「つくる会」と略)以降に高まった歴史認識論争。この時僕は高校生で、大学に入った九八年に小森陽一さんと高橋哲哉さんの共編で反論の書である『ナショナル・ヒストリーを超えて』(東京大学出版会)が出ました。現行の政治制度だけでなく、自らの過去についてすら「いかにあるべきか」を知識人が根底から疑い、激しく論争した時代があったわけですが、さていまはどうでしょうか。
綿野 
 同時期には加藤典洋さんの「敗戦後論」(『群像』一九九五年発表)をめぐって、高橋さんとのあいだでのちに「歴史主体論争」と呼ばれることになる論争が起きましたよね。日本という国の人格は、ジキルとハイドみたいに分裂している。侵略戦争で無意味に死んだ自国の兵士を先に弔うこと、現行憲法を主体的に選び直すことによって、分裂した人格を統一させ、侵略戦争で被害を与えたアジア諸国の人々に謝罪をすることができる。このような加藤さんの主張に対して、高橋さんは「そんな議論は、ナショナリズムに過ぎない」と批判した。また、「従軍慰安婦」問題をめぐっては、上野千鶴子さんの立場が歴史相対主義だと批判されました。この辺の問題に関しては、どう考えていましたか。
與那覇 
 歴史相対主義とは要するに、歴史の見方は多様だという考え方ですよね。たとえば男性の目線で語られる歴史と、女性の目線で語られる歴史は違う。あるいは沖縄の目線と本土の目線でも違う。そのどれかひとつを「真の歴史」として決める必要はないということです。これに対する反論のパターンも決まっていて、相対主義でいいのならば、歴史修正主義のような「嘘の歴史」もありになってしまうからけしからん、というものです。

不幸だったのは九〇年代に従軍慰安婦論争が始まった時、最初に日本政府が軍の「関与」も否定しましたね。それに対して吉見義明さんのような実証史家が具体的に文書で関与の証拠を示し、政府も見解を改めた。このタイミングで相対主義の立場を表明したために、上野さんは袋叩きにあったわけです。「必死にいま実証をがんばっているときに、なんてことを言うか」と。実際に僕も当時は歴史学志望の学生だったから、上野さんってとても悪い人だと思ったのだけど、いまはもう確信が持てない。単に関与ではなく(朝鮮半島での)「強制連行」に戦線を拡大して、まるで旧日本軍のように補給が続かず敗北した後になっても、「排他的に『真の歴史』の地位を争うより、『異なる歴史』との共存を考えませんか」という発想を否定していられる人は、たぶん何も考えてないんでしょうね。
綿野 
 それは與那覇さんが考えを変えられたのか、あるいは言論の状況そのものが変わってしまったのか。
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この記事の中でご紹介した本
知性は死なない 平成の鬱をこえて/文藝春秋
知性は死なない 平成の鬱をこえて
著 者:與那覇 潤
出版社:文藝春秋
以下のオンライン書店でご購入できます
応仁の乱/中央公論新社
応仁の乱
著 者:呉座 勇一
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
日本史の内幕  戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで/中央公論新社
日本史の内幕  戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで
著 者:磯田 道史
出版社:中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「日本史の内幕  戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで」出版社のホームページはこちら
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