堀川惠子ロングインタビュー 日本の政党政治を築いた男 『狼の義 新 犬養木堂伝』(KADOKAWA)刊行を機に|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2019年5月17日 / 新聞掲載日:2019年5月17日(第3289号)

堀川惠子ロングインタビュー
日本の政党政治を築いた男
『狼の義 新 犬養木堂伝』(KADOKAWA)刊行を機に

このエントリーをはてなブックマークに追加
狼の義 新 犬養木堂伝()KADOKAWA
狼の義 新 犬養木堂伝

KADOKAWA
  • オンライン書店で買う
五月十五日が今年もきたが、八十七年前のこの日、凶弾に倒れた犬養毅を、頭に浮かべた人はどれだけいるだろう。日本に政党政治の基盤を作るため政界を駆け回り、戦の足音が高まる中で一人、命がけで軍部に対峙した犬養。五・一五事件を境に、日本の政党政治は崩壊し、この国が焦土と果てるまで蘇らなかった。『狼の義 新 犬養木堂伝』(KADOKAWA)の刊行をきっかけに、著者の堀川惠子氏にお話を伺った。本書は、NHKエグゼクティブ・プロデューサーとしてNHKスペシャルや大型企画を担当した林新氏(一九五七~二〇一七年)が着手し、堀川氏が引き継いで書き上げたものである。(編集部)
第1回
二人の著者、二人の主人公

堀川 惠子氏
――はじめに、本書が刊行されるまでの経緯を伺えますか。ご主人の林新さんがほぼ半分まで書いて、その後を堀川さんが継いだとのことですが、具体的に資料や文章をどのように引き継ぎ、あるいは変更が加えられたのかなど、お聞きしたいのですが。
堀川 
 林が犬養毅を書くと決めてから、十年ほどの期間がありました。彼がNHKを退職したのが二〇一六年で、その前から準備を始めていたんです。長年テレビの世界で仕事をしてきましたが、退職したら書きたいと、その第一弾が「犬養伝」になる予定でした。

でもなんとか明治の終わりまで書いたところでパソコンに向かえなくなって、それが本書の半分ぐらい。推敲などできる状態ではなく、それからずっと入院、ということになってしまいます。

彼のことだから弱音は吐かないけれど、あれだけの資料を集めて読んで書いてきたのに、これは心残りだろうと。それで亡くなるひと月程前だったか、そのときにはもうICUに入っていたのですが、私が書こうか、といいました。

――堀川さんの方から申し出られた。
堀川 
 そうです。でも最初は「うん」とはいわなくて。まだあきらめ切れなかったのだと思います。亡くなる数日前に友人が病室に来て「心残りはないか」と訊いたときに、「唯一あるとしたら本だけど、惠子が書いてくれるから」と。そこで私は初めて、書いていいんだ、いや書かなければいけないんだ、と覚ったんです。

配偶者を亡くすストレスは想像以上で、私は一時期新聞が読めなくなってしまいました。でも不思議に、犬養関係の資料は読めました。これは、いまはこの本を書くことに集中しなさいということかなと。どこにどんな資料があるかも手探りの状況から、とにかく手当たり次第に読んでいきました。

ところが、林が大切に読んでいた同じ本を私も読むのですが、関心が異なるのか同じところに付箋が貼れないんです。

林が犬養毅の男気に惚れて、戦前の政党政治を躰を張って体現した、その生き様に迫りたいと思っていたのは分かる。分かるのだけど、心がついていかない。ひとりの人間を書くって、すごくパワーがいることですよね。共感も腹立ちも含めて、その対象の人物と一心同体になる時間が必要で、最後にポンと離れて書く。ところが犬養とはなかなか一緒になれません。弱音も漏らさない犬養は格好良すぎて、感情移入する隙がない。
困っていたときに出会ったのが、犬養の参謀役で、戦後は吉田茂の指南役となる古島一雄でした。古島が書き残したものは少ないのですが、それを読むと、犬養が単に格好良い人間ではなくて、無理して頑張っていたことが見えてきたんです(笑)。

――これで書ける、と思った具体的な瞬間がありましたか。
堀川 
 ありました。例えば、古島と出会ったころの犬養は、議会できれいごとを並べるけれど、裏では賄賂を受け取っている、などと周囲から中傷を受けていました。実際は潔白で、清貧というほどの生活だったのに、それに対して一切反論をしないんです。犬養は「俯仰天地に愧じず」と語り、自分の身にやましいことがないのだからそれでいい。他人の中傷に弁解せずにいることも人間修練だ、などとすましている。でも古島にいわせれば、それはただの痩せ我慢(笑)。古島の目線が加わって、いままで近寄り難かった犬養に血が通い、角度が加わり立体になる気がしました。

古島が新聞記者出身ということもあり、物の考え方が私と似ているところも共感しやすかった。

またこれは、政治の中で体現されていくことですが、一本気な犬養が意地を張り、袋小路に入り込んでいるときに、古島がスッと周りから地ならしして、頑なな犬養がとても首肯しそうにないことを、うんという方向にもっていくんです。普通選挙を実現するための護憲三派内閣も、古島がいなければまとまらなかったでしょう。総理になるときも、古島がかなり露払いをしています。そういう意味では、犬養自身を描くと同時に、犬養が進んでいく環境を作っていった古島の先見と策の巧みさ、影武者のしたたかさを書きたい。それなら書けると思ったんですよね。これは「犬養伝」だけれど、私の主人公は古島なのかもしれません。

ですから、林が最初に構想していたのとは、ずいぶん変更がありました。林の書いたものをそのまま残すことができればよかったのだけれど、付箋をつける場所が違う者が書くわけですから。私は私のやり方で古島を走らせ、古島を通して林が見たかった世界に出来る限り近づこうと、そういう仕事になりました。
2 3 4 5 6
この記事の中でご紹介した本
狼の義 新 犬養木堂伝/KADOKAWA
狼の義 新 犬養木堂伝
出版社:KADOKAWA
以下のオンライン書店でご購入できます
「狼の義 新 犬養木堂伝」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
堀川 惠子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
文学 > 日本文学関連記事
日本文学の関連記事をもっと見る >