エーゲ海に捧ぐ 書評|池田 満寿夫( 中央公論新社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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書評アイドル 渡辺小春が読む芥川賞
更新日:2019年5月17日

小説も一種の芸術作品

エーゲ海に捧ぐ
著 者:池田 満寿夫
出版社: 中央公論新社
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 今回の書評は、第七十七回芥川賞を受賞した、池田満寿夫さんの「エーゲ海に捧ぐ」(初出・『野生時代』1997年1月号)を選んだ。あらすじはこうだ。

妻を日本に残したまま、自分の芸術作品に没頭するためサンフランシスコに来た彫刻家の主人公のもとに、ある日、妻から国際電話がかかってくる。外国の愛人がいるのだろう、と、執拗に受話器ごしに責め立てられ続ける。その電話を聞きながら、一緒にスタジオにいる外国人の女、アニタとグロリアの体に魅せられた主人公は二人の行動を観察し・・。
あらすじだけを説明してしまうと、不可解で、面白くなさそうに感じる人が多いかもしれない。だが、私が好きなのは、ストーリーではなく、雰囲気だ。

読み終わった後も、ずっと胸の中でモヤモヤする文があった。「解っていることを解りきった風に言うのが愛よ。つまらないことだけど、つまらないことが一人の人間を救うんだ。」これは、主人公の妻が言った言葉だ。「救うんだ。」と言い切っていて、他の会話とはしゃべり方が異なっていた。この文だけがおかしくて、私に強烈なインパクトを残した。また、すらっと読んだだけでは全く意味が解らなかったのもモヤモヤした原因の一つだと思う。

言葉の意味をじっくり考えると、なんとなくではあるが、意味が分かってきた。私の中で、「愛」と聞くと、家族が真っ先に頭に浮かんだ。けれども愛に形はなくて、目には見えない。さらに「解っていること」を「解りきった風に」言う・・。この主人公の妻は、夫から「愛してる」という言葉を解りきった風に言って欲しい。それはつまらないことかもしれないけれど、それだけの為に電話をかけた。「愛してる」の言葉一つで心が救われる。そこに愛を感じると言っているのだ、と思った。一つの言葉で救われた経験はある。言っている意味は分かったが、もっと深い意味がありそうだ。でも、まだまだ私には愛について深く考えるのは難しい。愛についてもっと知れるようになるころにはっきりと意味が分かるようになるのだろうか。

私は、幼いころから絵が好きで、中学校では美術部に所属していた(幽霊部員でしたが・・・)。家族で美術館に行くことも多い。だから、この本の著者である池田満寿夫さん自身が芸術家だったことには驚いた。調べてみると、私の生まれる前に、版画、陶芸、作家、テレビ出演など、芸術のみならず様々な分野で活躍をした人物であったようで、母や祖母も知っていた。私は、そんな池田さんに対して〝天才〟というイメージを持った。天才の考えていることは、わからない。だからこの本の内容は不可解であって当然だ。自分の中で納得がいった。

読んだ後に、私が思い出したのは、昔、美術館でみたヌードの油絵だった。下品じゃなくて、ずっと見ていられて、自然と魅せられる感覚と雰囲気。これはそんな油絵と同じ雰囲気を持った小説なのだ。小説も、一種の芸術作品なのかもしれない。


高校生になりました。より一層頑張っていくので、宜しくお願いします。
この記事の中でご紹介した本
エーゲ海に捧ぐ/ 中央公論新社
エーゲ海に捧ぐ
著 者:池田 満寿夫
出版社: 中央公論新社
以下のオンライン書店でご購入できます
「エーゲ海に捧ぐ」出版社のホームページはこちら
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