筒井富栄『未明の街』(1970) 花をまく あなたとわたし 十二月 オレンジ色の海峡の汽車  |書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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現代短歌むしめがね
更新日:2019年5月28日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

花をまく あなたとわたし 十二月 オレンジ色の海峡の汽車  
筒井富栄『未明の街』(1970)

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鉄鋼、造船などの重厚長大産業がもてはやされた高度経済成長期。短歌も重厚な前衛短歌がムーブメントを作っていた時代において、軽音楽になぞらえて「軽短歌」を提唱し、都市風景をのびのびとした口語で詠むことを目指したのがこの筒井富栄である。俵万智らの「ライトヴァース」を二〇年も先取りしており、その俵に影響を与え「ライトヴァースの先駆け」とされる村木道彦よりも、さらに五年ほど登場が早い。現代の目で見てみると「なんてことのない普通の口語短歌」なのだが、そう見えてしまうのはこの手法が今となってはすっかり浸透したからに他ならない。

海峡を渡る汽車に乗って、気持ちも軽く走り過ぎてゆく姿を描いた連作「海の汽車」の中の一首である。一字あけを多用することで、猛スピードで過ぎてゆく車窓のイメージを重ねている。一九七〇年の時点で海峡を走る鉄道というのは、関門トンネル(一九四二年開通)を通る山陽本線だけであった。それでいて連作「海の汽車」の場合、「流氷」という言葉が出てくるなど明らかに北海道をモデルとしているような描写がみられ、現実には存在しないファンタジーとしての「海峡列車」であることがわかる。青函トンネルの開通は一九八八年であるが、一九五四年の洞爺丸事故で本格的に浮上した建設計画はすでに知られていたのでそのあたりから着想を得たのかもしれない。架空の鉄道というモチーフからして、ある種のSFといえる短歌である。(やまだ・わたる=歌人)
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