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American Picture Book Review
更新日:2019年5月28日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

『リリーはサヨナラが大嫌い』

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『Lily Hates Goodbyes』
Jerilyn Marler 著/Nathan Stoltenberg画
(Quincy Companion Books)

米国は9・11同時多発テロが起こった2001年にアフガン戦争、2003年にイラク戦争を開始。アフガン戦争は2014年に終結したがイラク戦争は今も続いており、現在は5000人の米兵が派兵されている。

米軍は現在、男女合わせて130万人の兵士を擁し、うち4割強が子供を持つ。2つの戦争が始まって以来、米国ではのべ200万人以上の子供が「ダディ/マミーが出兵」した経験を持つとされる。『リリーはサヨナラが大嫌い』はそうした子供たちと、出兵する親、家庭に留まり子供を育てる親の3者に向けた絵本だ。

幼いリリーはダディが出兵した後、悲しくて、寂しくて仕方がない。自分がハッピーでいることがダディをハッピーにするのだと分かっていても、時々どうしようもなく腹が立ち、マミーを困らせてしまう。そんな時、マミーは泣いても怒ってもいいよと言ってくれる。マミー自身も寂しかったり、腹が立ったりするのだとも言う。

リリーは自転車に乗ったり、ピアノを弾いたり、楽しく過ごそうと頑張る。絵を描いて「ダディの思い出の箱」に入れる。ダディが帰ってきたときに見せるのだ。ダディが帰還する日はカレンダーにシールを貼ってある。その日を指折り数え、やがてダディが帰ってきた! リリーはダディに「サヨナラを言うのは大嫌い」だが、「ハローは大好き」だ。原文はサヨナラ(Goodbyes)、ハロー(Hellos)が共に複数形となっており、父親が出兵と帰還を繰り返しているのだと分かる。

兵士を親に持つ子供たちは、こうした特殊な生活形態を強いられる。本作の作者はリリーの祖母であり、本文と後書きには米兵一家への具体的なアドバイスが多数含まれている。親も寂しいのだと子供と正直に語り合うのもその一つ。出兵した親と子供だけのコード(暗号)を持つのは特に有効だとある。絵本のリリーと父親は共に月に向かって語り合う。そうすればお互いの声を聞けるのだ。実際のリリーと父親は同じヌイグルミを持っている。父親は出兵先で撮ったヌイグルミの写真をリリーに送る。母親は世界地図を広げ、父親の駐留地をリリーに教える。どちらも離れた距離にありながら親子の絆を強めるためのアイデアだ。

米国では似た内容の絵本が何種類も出版されている。母親が出兵するもの、年長の子供向けに兵士の仕事を具体的に説明するものもある。ただし、どの絵本にも描かれないリアリティがある。親の戦死だ。

いずれにせよ兵士の親を持つ子供は親の職業を尊敬する。親の職業とは国に忠誠を尽くし、死をも厭わず戦うことだ。米国人の米軍への敬意と愛国心の出発点なのである。5月28日は連邦の祝日、戦没将兵追悼記念日である。(どうもと・かおる=NY在住ライター)
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