加藤陽子氏インタビュー 天皇はいかに受け継がれたか 歴史学研究会編/加藤陽子責任編集『天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承』(績文堂出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2019年5月24日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

加藤陽子氏インタビュー
天皇はいかに受け継がれたか
歴史学研究会編/加藤陽子責任編集『天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承』(績文堂出版)

このエントリーをはてなブックマークに追加
第2回
次代を担う若手研究者によるコラム

加藤 
 コラムを寄稿してくれた方々というのは、十年後にもし本書のような本を出す場合、中心を担うような若手のホープであって、そのような方々を選んだのもアピール点でしょうか。たとえば、中東史が専門の小澤一郎さんのコラムは、イランにおける王権表象の変遷を扱ったものですが(「姿を現すシャー ガージャール朝イランにおける君主像の表象」二七八頁)、偶像描写を忌避するイスラームと西欧文化、双方の影響が王権表象をいかに変容させたかをダイナミックに描いています。また、西洋中世史の鈴木喜晴さんのコラム「中世フランスの世襲王政」(三一一頁)は、異例なことに三百年以上も長子直系相続を継続できた「カペーの奇跡」の舞台裏を教会との関係から解き明かしたものです。佐伯智広さん(「古代・中世の皇位継承と幼帝」五一頁)のコラムは、天皇と摂関との機能を相互補佐的なものと捉えたうえで、院政の開始を一一〇七年におき、践祚時点で元服していた天皇の少なさから、「権力のあり方が、天皇に求められる身体的条件を、一八〇度転換させてしまった」との、極めて重要な指摘をしています。それ以前は、心身共に壮健な四〇歳以上の天皇が求められていたことに比べれば大きな変化でした。翻って現代を見ますと、国民の多くが支持している象徴天皇像の中核には、現在の上皇と上皇后が進めてきた公的行為がくるわけですね。そうであれば、全国をくまなく動きまわれる、エネルギッシュな天皇像、すなわち、高い身体能力を要する時代がまた巡ってきていると思われます。
中世・近世の天皇像

加藤 
 天皇の年齢ということでいえば、中世の遠藤基郎さんのコラム「即位年齢の上昇・東宮の変化」(一〇六頁)も必読です。承久の乱(承久三、一二二一年)によって皇位継承に鎌倉幕府の影響が強くなった時点から幕府滅亡までの時期、成人天皇が多くなる。年齢の上昇は両統迭立による争いの結果ですが、そうなったとき、年齢の高い成人天皇が即位するという正統性について、いっそうの正当化が必要とされ、新たな儀礼が登場してくると考えられるのだそうです。それが、新天皇に仏教的な力を与える密教の儀式(即位潅頂)でした。コラムは短篇ですが、天皇の権威が当時の権力構造の中でいかに正統性を与えられたのかという、ど真ん中の重要なポイントが簡潔に述べられているので、最初から最後までコラムだけ通読するのもお薦めです。こうしたコラムとしては、「諡号・追号・大行天皇号」の岩本健寿さん、「中世移行期における神社宗廟観と廃朝廃務」の井上正望さん、「皇位継承と天皇・公家の経済」の佐藤雄介さん、「近世の上皇と皇嗣」の村和明さん、「皇室財政と皇室財産」の加藤祐介さん、「代替わりと「おことば」」の国分航士さん、「近代中国における皇帝の退位と「人治」志向」の久保茉莉子さんなどがあります。

近世の天皇については、藤田論文の「近世の皇位継承」(一一一頁)が、これまで藤田氏が著した書物、例えば『天皇の歴史6 江戸時代の天皇』(講談社学術文庫、二〇一八年)、『光格天皇』(ミネルヴァ書房、二〇一八年)をふまえた包括的な皇位継承を論じています。この時代のある公家が、皇位継承の難しさを「微々如縷」と評したことはご質問の中で言及されていましたが、近世の皇統は短命の天皇が続いたゆえに不安定なものでした。次代の天皇を無事に世に送り出すことをもって天皇自らの任務だとの意識が天皇側に生しだのも理解できようというものです。よってこの時期の継承は、「譲位・受禅による皇位継承が常態」(一一四頁)となります。その近世の天皇ですが、譲位後三年くらいで、三〇代ほどで亡くなってしまう。昨年のシンポジウムで会場からも質問がありましたが、譲位後すぐに亡くなるくらい天皇の役目は激務なのかといった「問い」が生まれますね。権力と権威を意外にも良好に分担しあう幕府の監督下にあって、慣習と先例が大部分を占める朝廷の内部を一族の長として管理しなければならない。王権の多極構造を維持するだけの力がやはり必要でした。大学に入ったばかりのような、これから勉強しようとの意欲が高い人たちがこの本を手にすれば、天皇の歴史における各時代の多様性が本当によくわかると思います。 
1 3 4 5 6
この記事の中でご紹介した本
天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承/績文堂出版
天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承
編集者:加藤 陽子
編 集:歴史学研究会
出版社:績文堂出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
加藤 陽子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
社会・政治 > 日本の政治 > 天皇関連記事
天皇の関連記事をもっと見る >