加藤陽子氏インタビュー 天皇はいかに受け継がれたか 歴史学研究会編/加藤陽子責任編集『天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承』(績文堂出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年5月24日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

加藤陽子氏インタビュー
天皇はいかに受け継がれたか
歴史学研究会編/加藤陽子責任編集『天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承』(績文堂出版)

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第3回
日本史からだけで世界を見る怖さ

加藤 陽子氏
加藤 
 本書を編集してみて、東西の歴史との摺り合わせがいかに大切か痛感しました。中澤達哉さんの論文のタイトルは既に挙げましたが、この論文ではまず、ヨーロッパにおいては、二つの王政、二つの継承原理が併存してきたとの史実が端的に紹介されています。それは、世襲王政(イングランド、フランス、スペインなどの西欧)と選挙王政(ポーランドなどの中東欧)の二つであって、シェークスピア『ハムレット』やルソー『社会契約論』などの作品が豊かに描いてきたように、世襲と選挙、この二つの制度への相互参照が不断になされ、制度改良のための理論と実践が長く続けられてきたことがおさえられています。そのような目から見たとき、日本ではあまりにも世襲を自明のこととして考えていませんか、と中澤さんは問いかけています。また、「ローマ教皇と世俗権力」(三〇九頁)と題したコラムを書いた永本哲也さんは、『ミュンスター宗教改革』(東北大学出版会、二〇一八年)を上梓されたばかりの気鋭の研究者ですが、たった二頁の分量で、八世紀から一九世紀までの長期にわたる、教皇と世俗権力の関係の推移を活写してくれています。明治になって伊藤博文が、日本という国には欧州と違い、「人心帰一の基軸」となるような宗教がない、とまずは判断する。そこで伊藤は、人心の拠り所としての「皇室」(天皇と皇族を含む)を人為的に創出することを決意します。帝国憲法を作る素地を学ぶため、英国や欧州に調査に出かけた伊藤でしたが、本書を読めば、その伊藤の目の動きをまさに西洋史研究者の学知によって追認できるわけで、本当にお薦めの本だと思います。
すべての歴史は現代史である

――昨年のシンポジウムから本書刊行まで、また代替わりと改元に向けて、短期間に物事が急ピッチに進む混乱した状況の中で大変な力技で本書をまとめられました。刊行までの経緯や刊行されての感慨などもお話しいただけますか?
加藤 
 この本を作った経緯ですか。話せば長いです(笑)。『歴史とは何か』(清水幾太郎訳、岩波書店)を書いた歴史家E・H・カーに、「歴史とは現在と過去との対話である」「すべての歴史は現代史である」という、誰でも知っている言葉がありますね。また、厚くてなかなか完読した人の少ない、E・H・カントーロヴィチの『王の二つの身体 中世政治神学研究』(小林公訳、平凡社、一九九二年/ちくま学芸文庫(上・下)、二〇〇三年)という本があり、そこでは王には自然的身体と政治的身体の二つがあり、自然的身体の方は老いるし間違いも犯すけれども、政治的身体は一瞬たりとも空位であることはないとの考え方が膨大な事例とともに全面展開されています。今回、現上皇、明仁天皇が譲位を表明した三年前からの経緯を目にしたとき、私の頭の中で先の二冊の本がぐっと身に迫ってきた感がありました。

王の政治的身体についての王権神授説などの考え方では、王の生物的な身体が亡くなると瞬時に天上に昇り、天上の神がまた瞬時に次の王に王位を授けると考えられているわけですね。明治の法制官僚の井上毅など、実際に明治憲法を書き、皇室典範を書いた人間は、この「瞬時に」王位が継承されることを知見として知っていました。ですから、明治の皇室典範では第一〇条で「天皇崩スルトキハ皇嗣即チ践祚シ祖宗ノ神器ヲ承ク」と書き、また戦後の法律としての皇室典範第四条「天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する」でも基本的に同じスタンスで、崩御の後直ぐに践祚がなされると書きます。こうした部分が腑に落ちたのです。

しかし、この崩御の後直ぐに践祚、という慌ただしさは、明治になって近代に創出されたものであることは、この本の前近代までの崩御のあり方、葬送儀礼の在り方を学べばわかりますね。このたびの天皇の代替わり、改元や皇位継承にまつわる一連の動きに同時代的に立ち会う中で、「王の二つの身体」という学問の描いている世界やE・H・カーの「すべての歴史は現代と過去との対話」であるということが改めてヴィヴィッドに私に迫ってきました。
これは因果関係が実証できる話ではありませんが、若い学生らの間で、新しい時代ではなく、古代からまずはしっかりと学ぼうといった気風が出てきたことも面白いと思います。例えば、東大文学部の日本史学研究室に進学する学生も、古代史の学生が近年になく増えています。歴研のシンポジウムでも、これまでにないほど学生や若い方もたくさん参加されていましたね。
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この記事の中でご紹介した本
天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承/績文堂出版
天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承
編集者:加藤 陽子
編 集:歴史学研究会
出版社:績文堂出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承」出版社のホームページはこちら
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