加藤陽子氏インタビュー 天皇はいかに受け継がれたか 歴史学研究会編/加藤陽子責任編集『天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承』(績文堂出版)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
マイページで記事のブックマーク!
ログイン
マイページ登録

トップページ

特集

書評

連載

コラム

ニュース

読書人とは マイページ

読書人紙面掲載 特集
更新日:2019年5月24日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

加藤陽子氏インタビュー
天皇はいかに受け継がれたか
歴史学研究会編/加藤陽子責任編集『天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承』(績文堂出版)

このエントリーをはてなブックマークに追加
第4回
近現代史の立場から

加藤 陽子氏
加藤 
 天皇の自己言及ということでいいますと、今回のように生きている天皇自身が天皇のステイタスに自己言及するというのは実に興味深いことです。記録や史料の残りやすさという点では、『明治天皇紀』や宮内公文書館史料を縦横に用いた西川誠さんの描く本格的な制度史のなかでの明治天皇像、また河西秀哉さんが大衆文化状況の中での天皇像を斬新な史料群から位置づけた明仁皇太子像など、出色の面白さだと思います。

ただ、古い時代でも、まわりから意外に迫ることもできます。古代であれば宣命や詔書の言葉から、中世になりますと天皇を支える公家や武家が残した記録から天皇の動静がよく伝わります。それが近世期になりますとぐっと増えて、災害の後などに伊勢神宮に献じられた宸筆宣命(天皇自筆の詔書)により、天皇の意思を読みとれるようになります。権威しか有しないとされた近世の天皇であっても、自身が万世一系の第何代目の天皇であるかとの自意識はありました。これまでの研究史では、民衆の側は、あるいは権力の側は、天皇をどう認識していたかといった観点からのものが多かったのですが、天皇はいかに自らを位置づけていたか、との観点で描けるようになってきました。現代でいえば、宮内庁ホームページには天皇皇后ら皇族の「おことば」が載せられていて、たとえば上皇上皇后が象徴という行為を自らどう認識しているかも、ある程度読み取れます。詳しく述べる紙幅がなくて残念ですが、憲法で定められた国事行為といった語句とは異なる、「お役」「務め」といった言葉が用いられているのが印象的です。英語でその違いを示しますと、日本国憲法で国事行為といった場合の「行為」の英訳はactsですが、上皇と上皇后の場合は自身のお務めに対して、dutiesを用いているのが印象に残りました。

これまで、近現代史の立場から、このような通史的な天皇本を編集しようとの試みはなかったと思います。天皇の在り方や制度を歴史的に考察しようとする時、やはり前近代を専門とする研究者がとりまとめる。例えば古代史の大津透さんが編者となった『王権を考える』(山川出版社、二〇〇六年)や、全時代をお一人で書いてしまった法制史の水林彪さんの『天皇制史論 本質・起源・展開』(岩波書店、二〇〇六年)などです。これに関していえば、画期となった流れは、二〇一一年四月施行の公文書管理法でしょう。宮内庁書陵部が国立公文書館等の区分に入ったことで宮内公文書館となり、九万件以上の史料が特定歴史公文書として迅速に大量に閲覧できるようになりました。その結果、宮内省や宮中という組織の中の意思決定過程が史料から追えるようになった。まさに夢のようです。例えば、大正一〇(一九二一)年十一月の皇太子裕仁親王の摂政設置を決める会議での皇族の発言など記録された正式の文書が閲覧できるようになった。近代における皇太子と摂政の違いなど、運用の実態がとてもわかるのです。皇太子、摂政の役割について、近現代史の知見が遡及的に前近代史に新たな光を当てうるということです。

本書で、金子修一さんが「中国皇帝の譲位と元号」(二五五頁)と題した論文を書いてくださったのですが、この論文がなぜ大事かというと、これは横軸の比較になるからです。当時の世界帝国であった隋唐に日本は遣隋使、遣唐使を送って法制度を輸入したのはよく知られたことです。ただ、この時期の中国の法制度は中国古代史にあっては、かなり特殊な時期の制度だということがわかる。皇后がいて、皇太子がいる、というのは中国古代史でも実は珍しいことで、日本が遣隋使、遣唐使を送っていた時代に特有の制度でした。その時代の特殊性や偏差の度合いが、中国古代の儀礼の専門家である金子さんの論文でわかったことは、実に面白いことでした。法制度の輸入の段階で、そのような歪みや偏差も含めて日本に入ってくるという観点は、古代であれば中華帝国である中国の隋唐から法制度を輸入する際の歪みがあったことに気づかせてくれ、翻って、近代であれば一九世紀後半のヨーロッパの標準的な君主国から法制度を輸入した際の歪みを見出してゆく醍醐味を与えてくれるものです。このようなことを考えますと、やはり近代史の研究者が責任編集をした独自性はあるのではないか、と思っています。
1 2 3 5 6
この記事の中でご紹介した本
天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承/績文堂出版
天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承
編集者:加藤 陽子
編 集:歴史学研究会
出版社:績文堂出版
以下のオンライン書店でご購入できます
「天皇はいかに受け継がれたか  ー天皇の身体と皇位継承」出版社のホームページはこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加
加藤 陽子 氏の関連記事
読書人紙面掲載 特集のその他の記事
読書人紙面掲載 特集をもっと見る >
社会・政治 > 日本の政治 > 天皇関連記事
天皇の関連記事をもっと見る >