未来のコミューン 家、家族、共存のかたち 書評|中谷 礼仁(インスクリプト)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 書評
更新日:2019年5月25日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

未来のコミューン 家、家族、共存のかたち 書評
SF小説のような建築書
未来へ向けての希望を語る

未来のコミューン 家、家族、共存のかたち
著 者:中谷 礼仁
出版社:インスクリプト
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すべての建築家は、いちどSF小説を書いてみるべきだ。

僕はそんなことを思った。というのもこの『未来のコミューン』がまさに、SF小説のようだからだ。

しかし事実は、本書はSFでも小説でもない。中谷の著述は、自らが関わったプロジェクトをめぐる終章を例外として、すべて歴史へと向かっている。今日には結実しえなかった歴史を、現在を飛び越えて未来へと結びつけようとする試み。中谷が本書で行っているのはそれであり、それはまさにSF小説の試みそのものなのだ。

本書で中谷は、実際にSF小説に言及している。ハクスレーが一九三二年に書いた「すばらしい新世界」はディストピアとしての未来社会を描く。それはハワードの著名な近代都市計画理論の「田園都市論」に相似した空間構造を持つという。それはハクスレーが、ハワードと同様に時代の問題を理解し、ソリューションとしての空間を設計し提案していることを意味している。中谷はこう書いている。「ハクスレーは批判的に新世界を模索した。と同時に、その後のハクスレーの人生を予想するかのように、そのシステムではどうしても回収することができない人間の生物的部分にも気づいていた。」本書の全編を通して中谷が追求しているのもまさに「システムでは回収できないもの」であり、その意味でも中谷はハクスレーのように小説を書いているに等しい。

「システムでは回収できないもの」とはどのようなものか?それを明らかにするために、中谷は歴史に向かっている。それは、システムがすべてを解決すると信じられている現在には、見出すことができないものだからだ。そしてまず、民家がかつて持っていた「ナンド」の空間に着目する。そこは単に「モノ」を収納する機能だけを持つのではない。そこは性の空間であり、生から死への移行の空間でもあった。中谷はそれを「化モノ」の空間と呼ぶ。「化モノ」の空間は「ドマ」とともに、あるいは空へと突き抜ける煙突とセットになって、自然と交感する。

人間とは厄介なものである。やがて老い死ぬことを自覚しながら、それを受け入れることは難しい。理性では制御できない無意識の力が溢れ出し、それは精神の病と呼ばれることもある。近代とはこうした厄介なものを、システムの周縁に追いやり、見ないふりをしようと企図した。企図はほぼ成功し、現代の都市と住居からは、「化モノ」の空間も精神の病のための場所も無事放逐された。だがそれでもひとは、やがて老い死ぬ時間に耐え、理性の制御の利かぬ力と戦わなくてはならない。人間にとっての最大の問題は解決しない。

だが本当は、近代の始まりにおいても、そうした最大の問題は意識されていたのだ。中谷は「装飾は犯罪である」というテーゼを生んだ建築家アドルフ・ロースの著作と建築に迫る。するとロースの建築にも「化モノ」の空間はあったのだ。機能には置き換えられない性の力に満ちた肉体のための空間が。

本書はSF小説のようでもあると書いたが、建築家の仕事が小説家とは異なる点がひとつだけある。小説は暗い未来によって物語を閉じてもよい。だが建築はそうはいかない。必ず、希望への解決を示さなければならない。中谷は最終章で、自らが関わったプロジェクトについて書く。それは精神障害者たちの、地域における活動拠点だという。この新しい形式の「家族」のための「家」に、中谷は「家族」と共働して「ドマ」をつくる。この「ドマ」が周縁に追いやられたものたちを地域へと送り戻す働きをすることが示唆される。小さな希望の暗示するものが描かれて終わるという点では、やはりこの建築書は小説のようでもある。
この記事の中でご紹介した本
未来のコミューン 家、家族、共存のかたち/インスクリプト
未来のコミューン 家、家族、共存のかたち
著 者:中谷 礼仁
出版社:インスクリプト
以下のオンライン書店でご購入できます
「未来のコミューン 家、家族、共存のかたち」出版社のホームページはこちら
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