ジョイスへの扉 『若き日の芸術家の肖像』を開く十二の鍵 書評|高橋 渡(英宝社)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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更新日:2019年5月25日 / 新聞掲載日:2019年5月24日(第3290号)

ジョイスへの扉 『若き日の芸術家の肖像』を開く十二の鍵 書評
ジョイス研究の奔流を体現
トップクラスの研究者が集う「ガチンコ」論文集 

ジョイスへの扉 『若き日の芸術家の肖像』を開く十二の鍵
著 者:高橋 渡、河原 真也、田多良 俊樹
出版社:英宝社
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難解で知られるジョイスだが、この作家を教育の場で扱うなら短編集である『ダブリナーズ』よりも若者の成長譚でもある『若き日の芸術家の肖像』の方が学生たちは受け入れやすい、と国際学会でコメントして会場を感服させたのは本書執筆者の一人、伊東栄志郎である(以下、敬称略)。翻って本書が『若き日の芸術家の肖像』に一般読者を誘うのに最適かというと、それはなかなか難しい。本書はトップクラスのジョイス研究者たちが集った「ガチンコ」研究論文集であるからだ。本書あとがきでは、同じ作品を扱った論文集、金井嘉彦・道木一弘編著『ジョイスの迷宮 『若き日の芸術家の肖像』に嵌る方法』(言叢社)を併せて読むことが勧められている。理由の一つは、『ジョイスの迷宮』には一般読者を意識したあらすじやキーワードの解説が収められているからだろう。それでも『ジョイスの扉』には、翻訳などを通じてジョイスをある程度知っている読者が楽しめる、リーダビリティが高い論文も複数ある。お薦めは、日本津々浦々のジョイス研究会の常連、小田井勝彦のジョイスの親友と『肖像』の登場人物の関係を扱った論文や、中部日本ジョイシアンの雄、道木一弘の『肖像』の主人公スティーヴン・デダラスの芸術論のベケットによる実作への活用を精査した論文あたりか。新鋭南谷奉良が『肖像』の祖型である『スティーヴン・ヒアロー』を思う存分論じて論文自体が怪物化しかかっている論を読めば、『スティーヴン・ヒアロー』そのもの(邦訳あり)を手に取りたくなるだろう。

本論文集にはある種の「潔さ」があり、その一端がうかがえるのが、論文が円卓の騎士のように著者の五十音順で同列に並べられていることである(後ろにまとめられた英語論文二編も同様)。ここでこの論集の全体像を示すために、僭越ながら各論をテーマ別に分けることを試みてみよう。スティーヴンは『肖像』だけでなく『ユリシーズ』にも登場するが、両作品にまたがってスティーヴンや作者を論じた吉川信・高橋渡・小林広直の各論(これらの議論は『ユリシーズ』を英語で通読していることが前提となっており、かなり高度である)。作者ジョイスの受けた教育に焦点を合わせた河原真也・田中恵理・伊東の各論(ジョイスの伝記的な事柄について多くを知ることができる。小田井論文は仕分けるならここのところか。なお、このグループ内では、あるトピックに関して論文間で真っ向から見解が異なっている。これも、潔いガチンコ論文集ゆえである)。スティーヴンやジョイスの美学を扱った岩下いずみ・道木・南谷の各論。歴史における記憶の役割を扱った田多良俊樹・Brian Foxの各論(Fox論文はジョイスの作品よりも記憶を基にした歴史的証言を中心に据えており、文学研究というより記憶論の趣がある)。

まえがきに静かに触れられているだけだが、本書は長らくジョイス研究に貢献されてきた高橋渡県立広島大学教授のご退官を言祝ぐ論集である。おそらくは高橋先生のお人柄を反映して、本論集の執筆者たちは長さ・題材の切り口・言語などを自由に選ぶことを許されている。結果、本書は全体として、日本におけるジョイス研究の現況を、活き活きと切り出して見せてくれている。ここで終わりではない。二〇二二年の『ユリシーズ』発刊百周年に向け、ジョイス研究は益々その強度と速度をあげてゆくだろう。本書が体現するのは、まさしくその奔流である。
この記事の中でご紹介した本
ジョイスへの扉 『若き日の芸術家の肖像』を開く十二の鍵/英宝社
ジョイスへの扉 『若き日の芸術家の肖像』を開く十二の鍵
著 者:高橋 渡、河原 真也、田多良 俊樹
出版社:英宝社
以下のオンライン書店でご購入できます
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